&フィクション



カタ、何かが置かれるような音、──爪切り?



ギシ、ベッドが悲鳴をあげて、身体がそちらに傾きかける。



何。誰かがベッドの端に体重をかけるような。



誰か、なんて、誠しかいないだろうけど。



目を開けてはいけない。



思う。



開けたら、ぜんぶ、崩れて壊れて、脆いと知ってしまう。いや、確信してしまう、だろうか。



ふあ、吐息が皮膚を駆けてゆく。



「なあ」



そんな投げやりな呼びかけ、はじめて聞いた。



誠からも、人生のうちでも。



「……何」



左側、だけが。傾く。



あたしの腿の左側。そこに、たぶん、誠の膝が。


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