生きていこう。それがいいんだ。
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“カランカラン”
“いらっしゃいませ”
「あ~お待たせお待たせ。」
「よぉ。相変わらず忙しそうだな。」
「もう過労死寸前だってホントに。
でもお陰で今週号も増刷の嵐だよ。」
「まぁ1年前のウチの大臣の未成年買春疑惑については握り潰してもらったからな・・。
これで貸し借り無しだぞ?」
「編集長曰く、まだこっちの貸しは返済されてないらしいけど。」
「ハァァ・・その通りかもしれないけど、
勘弁してくれよホント。」
「ハハハ。それで今日はどうした?」
「・・・確度が低い情報だけどいいか?
少し調べて欲しいことがある。」
「また“貸し”を増やすつもりか?」
「うまくいけば谷内総理を辞職まで追い込めるネタだぜ?そっちにとっても悪くない話だ。」
「えげつないねぇ?
今回の立石大臣だけじゃなく、
“谷内派”を一掃するつもりか?」
「穏健な爺さん達にはさっさと引退してもらって、
この国はウチの大臣に天下取ってもらわないといけないからねぇ・・。
少し長くなる話だけど大丈夫か?」
「ハハハ。今日はトコトン付き合いますよ。」
「・・・【孤人の館】・・・
聞いた事ぐらいはあるだろ?」
「あぁ~・・・確か、
全国初の【国立】葬儀場か?」
「全国の警察や自治体の要請によって、
・身寄りがいない
・身元不明
・絶縁,勘当等で遺族が受け取り拒否
そういった理由で、
結果的に【孤独】と化した遺体の火葬・埋葬を請け負う・・国が作った葬儀屋。
随分とニュースにも取り上げられたってもんだ。」
「少子高齢化社会が進むこの国にとっては、
誰もが“明日は我が身”かもしれないネタだからなぁ・・。で、これがどうした?」
「あの葬儀屋設立には・・福浦 厚生労働大臣が一枚噛んだらしい。」
「え!?そうなの?」
「谷内総理の懐刀。
次期総理候補No.1。
谷内派の絶対的存在と言っても過言じゃないあの福浦さんの肝いり案件で、
厚労省や永田町が一気に動いて、“国立葬儀場”として出来上がったんだよ。」
「へ~。福浦大臣もそういう事するんだな。
人脈と人望を見せつけて高圧的に攻める立石大臣と違って、
福浦大臣は隠密に相手を仕留める政治をするイメージだったけど、
今回は随分と目立つ動きを見せたってことか・・。」
「・・・・・ここからが本題だ。」
「・・・・・・?」
「もう一度言うが確度が低い情報だぞ?」
「分かってるよ。」
「“引き取り手がいない孤独な死者を悼む為”って、建前はもっともらしい事言ってるけど、
この葬儀屋の創設には“裏”があるかもしれない。」
「裏って言うと・・まさか・・?」
「不正献金。各種賄賂。
政務活動費 不正計上。
天下り先企業へのお包み。
この施設をありとあらゆる“黒い金”流通の隠れ蓑にする魂胆があるかもっていう話だ。」
「なるほど・・。それで福浦大臣が直々に動いたってわけだな?」
「もしこれが事実で、
この話が世間に知れ渡ってみろ?
福浦大臣の辞職は免れない上に、今度こそ谷内総理の息の根を止められる。」
「任命責任って話だけで済む話じゃないからな・・。
これで“谷内派”は一掃されて、買春エロ大臣がこの国の顔になるって筋書きか?」
「おいっ!口を慎め。」
「だって事実じゃん。」
「・・・・まぁそうだけど・・。」
「話は分かった。ウチの若い衆を使って、
【ネズミ】として潜り込ませてみる。」
「頼りになるねぇ天下の週刊誌様は。」
「なにか他に、孤人の館についての情報は?
開設時はめちゃくちゃ人当たりの良さそうなオッチャンが、
“館長”としてメディア露出してたけど・・。」
「メンバーはその館長含め3人。」
「え!?それだけ?」
「当たり前だろ?
誰も悼む奴なんていない孤独な死者なんだから。
スタッフだけで適当に葬儀して、ちゃっちゃと遺体焼いて骨壺保管するだけだから、
必要最低限の人数しかいないらしい。」
「まぁ少ないなら少ないで、“雑用募集”ぐらいなら受け入れてくれるチャンスはあるな。」
「頼んだくせに脅して悪いが、
ネズミの人選は慎重にやってくれ。
まずその館長が怪しすぎる。」
「・・・・?」
「福浦大臣の肝いり案件なんだぞ?あのお方がズブな素人を責任者にするはずが無い。
ある筋の情報によれば、
“裏社会”の人間かもしれない。」
「おいおい・・怖い事言うなよ。」
「外見はめちゃくちゃ性格良さそうなオジサンだけど、見た目に騙されるな。
どこかの国の大使館で諜報活動を行っていた過去がある・・ってまことしやかな噂だ。」
「福浦大臣の息がかかった男か・・。
他の2人は?」
「1人はひょうひょうとした若い兄ちゃんだ。
この男に関してはこれといった噂は聞いてない。だが繰り返しになるが福・・」
「“福浦大臣がバックにいる”
・・分かった分かった。」
「・・・問題は【もう一人】・・。
もしかしたら、館長よりもこっちが本命かもしれない・・。」
「え・・誰・・・?」
「女だ。しかもかなり若いらしい。」
「いやいや・・女かよ!」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「あれ・・?でも確か孤人の館をメディアが取り上げてた時、
女のスタッフは映ってなかった気がしたけどな・・。」
「だから怖いんだよ・・。
噂は聞くが・・
誰もその姿を見た事が無い。
噂だけが伝わって実態が掴めない・・。
もし福浦大臣や館長の隠し球だとしたら、
その女こそが孤人の館の鍵を握ってるかもしれない・・。」
「噂っていうのはどんな?」
「外見の特徴のみだ。
常に全身真っ黒なコーデで・・・。」
「葬儀屋なんだから喪服で真っ黒なのは当たり前だろ。」
「それだけじゃなくて、
右目に【真っ黒な眼帯】を付けてるらしい。
あの伊達政宗とか、
山本勘助とか・・・。」
「海賊が付けてるみたいなやつ?」
「伊達政宗の例えで大体分かるだろ・・。」
「実は殺し屋かもしれない優オジサンに、ひょうひょう若兄ちゃんに、
謎の眼帯女か・・。
こりゃあ調べ甲斐があるねぇ。
ウチにうってつけのネズミがいる。
潜入させるにはもってこいだ。」
「最初に言った“不正金疑惑”が事実なら、
金回りの事を記す“裏帳簿”が絶対にどこかにあるはずだ。
それを見つけたらド派手に頼むぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうした?」
「もし、そんな話は根も葉もない真っ赤な嘘で、本当~~に、
[誰も看取る人がいなかった孤独な死者を悼んで、あの世へキチンと送り出してあげる、
死と生に真摯に向き合う集団]
・・だったとしたら、
調べ損にならないか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・。」
「もしそうだったら・・・ゴメン。」
「いや謝って済む問題かい!!」
「いやそれならそれで、
美談記事にして売り飛ばせ!」
「結局それかい!!」
新シリーズ 【独眼嬢 ミサ】
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