生きていこう。それがいいんだ。


10歳ぐらいから出し方を忘れたはずの滴が、一気に視界を滲ませていった・・。


10歳ぐらいから陥らなくなった嗚咽が、一気に呼吸を苦しませていった・・。


ベンチに座って俯いて、
どんどんと地面が濡れていく。


だから顔を見られたくなくて、その前に立つ足下ばかりを視界に入れていた・・・。



「こういう状況だからとか、
下手に同情したからとかじゃないけど、

前に話を聞いた時から、
言いたかった事がある。」


「・・スッ・・なに・・。」


「前に話を聞いた時は、絶対逆ギレされると思って言葉を飲み込んだ。」


「だからなに・・!」



「俺は好きだよ。“シズカ”って名前。」



「・・・・・・・・・・・・・・。」


「可愛いし、なんかお風呂が好きそうだし、なんか色んな男の子にモテそうだし。」


「・・・絶対・・ドラえもんに引っ張られてるでしょ・・。」


「ハハッ・・バレた?」


「・・・・・・・・・・。」


「でもシズカって名前も、

その名前を付けて、自分の気持ちに正直になって泣きじゃくる本人も、

嫌いじゃないって話は俺の本音だよ。」


「・・・・安っぽいドラマにありがちな展開だったら、

このままの勢いでヒロインの事を抱きしめるのが男役の役割でしょ・・。」


「ハハッ。ちゃんと自分の事“ヒロイン”って認識してくれて助かるわ。」


「・・・・・・・・・。」


「でも、これまでのシズカの人生も、
お母さんとの関係性についても、

“安っぽい”はずが無いから、
そんな展開にはさせないよ?」



「・・・・・・一応・・・・
ありがとうって言っとく・・。」


「うん。一応、どういたしまして。」







第4章 完








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