冷酷社長に甘さ優しさ糖分を。【完】
とんでもない事になったなと
不安しかない未来に溜め息を吐くイトカに。
「それとも何か?
俺だと不服とでも?」
「そんな滅相もない。
ですが…私と婚約なんてしたら
社長の印象が悪くなる恐れが…」
それでなくてもこの街に一般庶民がいること自体
良い気がしない人は多いだろうし。
「そんなくだらない事は気にするな」
「くだらないって…」
「あのクソ資産家に
あんな事をされるお前を、もう見たくはないんだ。
俺が護れる唯一の方法だ。
巻き込んで悪いな…」
悲しそうな彼の言葉に
心臓が脈を打つ。
今までも小さな優しさは垣間見えていたが
金我の一件からイトカに対する気持ちの部分が
少しずつ変わっていた。
厄介なのは
その気持ちに双方がまったく気づいていないという事だ…。
「まぁ深くは考えるな。
あくまで書面上の話だ。
護衛用のお守りくらいの気持ちでいろ」
人生賭けた一世一代の決断なのに
感情のないお守り代わりなんて
そんな気持ちは絶対ダメだって
頭では理解している。
だが金我の言葉を思い出し
自分の立場がその程度だと思い知らされる。
庶民がココで働いていく以上
ワガママも他の選択肢もない。
共感し得ないが仕方のない事。
そしてそれ以上に
社長なりの優しさと気遣い
護ると言ってくれた言葉に気持ちが揺れて
イトカは書類にサインをした―――