結婚ノすゝめ
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「は?!田宮凪斗が何者か知らなかった?!」
月曜日、S Pに送迎されながら出社した私の元に「何事?!」と先輩であり、パートナーの依田さんが寄ってきた。
依田さんには…最初に報告したい。事のあらましを。
というわけで、契約結婚だということは隠しつつ、結婚のご報告。
「…嘘でしょ。美花…それは、証券会社勤務としてマズいのでは。」
「いや…はい。その…ウェブデザイナーと世界の100人は繋がっていたのですが…まさかあの田宮凪斗が自分の前にいる人だと思わなくて…。」
「うーん…まあね。お客様として現れれば、すぐにつながるけれど、プライベートで知り合ったら、中々わからないか…。それにしても田宮さんも自ら中々言わないなんてイイ男なのね!」
「よかったね!凄い人捕まえたじゃん!」と私の背中をバシバシ…叩く依田さんにどこかホッとする。いつもそうだけど、依田さんはさっぱりはっきりとしている。誰の話にも素直に一喜一憂してくれるし、けれど羨ましいとか、ヒガミ的なこともなく、「自分は自分」を貫く人だ。
そして…美人だし。
「あの…依田さんは、自分磨きとかしていますか?」
「そりゃ、もちろん。私ももう30歳だよ?するよ、それは。旦那もそこはお金かけて良いって言ってくれてるしね。母であり、仕事人である私にも気分転換は必要です。」
腰に手を当て、ドヤ顔で言う依田さんに少しクッと笑ってしまう。育児、家事、仕事のバランスをちゃんと旦那さんと一緒にうまく取っているんだな…。本当に依田さんは素敵。
「ちょっと!笑い事じゃないわよ?田宮凪斗の嫁何だから、相当頑張って自分磨きしないと。綺麗な花嫁、期待してるよ!」
そう…だよ。依田さんに惚れ直している場合ではなかった。
私…田宮さんに綺麗だと言わせなければならなかったんだ。
安心と安全を手に入れてホッとしたのも束の間、一難去ってまた一難。いや、今回は自分から呼び寄せたとも言えるけれど。とにかく…何とかしなければ。
崖っぷちに立った様な気持ちで、中田さんにメッセージを送る。
『え?田宮さんの好みですか?うーん…美花さんなんじゃないですかね?』
…ダメだ、中田さんは参考にならない。
じゃあ、真崎先生はどうだろうか。
『田宮さんですか?彼は、来るもの拒まずでしたからね。そういう意味では、モデルや女優、世界各国のセレブ達…誰に対しても『綺麗』なんていう人間的な心など皆無でしょう。そこが彼の長所ですから。』
真崎先生…即レスでサラッと言わないでください。余計に崖の淵に追いやられました…。
私…かなり無謀な賭けをしたよね、これ。
だって、世界のセレブやモデルや女優が、寄ってたかってかかったところで、『綺麗だ』という心を引き出せなかったんだよ?
そんな一介の庶民な私が…
どう考えても、平凡な顔貌の私が…
…難しくない?
はあと項垂れた私にまた中田さんからの返信が。
『美花さん、自信を持ってください!だって、あの社長がぞっこんなんですよ!他の女性に一ミリも心を動かされなかった社長が!』
…ごめんなさい。
私に対してもそういう意味では心を動かしていないんです。
『しかし。あるいは美花さんならあの社長に『綺麗だ』と言わせる事が出来るかもしれないと思います。』
いや、だから、真崎先生も。そこはギブアンドテイクの内容を知らないから…。
『よし!こうなったら、俺、協力しますよ!社長がデレデレになる所を見たいです!』
『社長のだらしない顔という、貴重映像を拝みたいので、協力します。』
…どうしよう。二人の闘志に火をつけた。
でも、田宮さんをよく知るお二人に協力して貰えるなら、心強い。
『よろしくお願いします!』
そう返信をしたら、既読にはなったけれど、そこからしばらく返信はない。
いや、お忙しい最中ではあったと思うけれど。
急にこう、返信が途絶えると不安になる。自分が後めたいから余計に。
と、心細くなったのも束の間。
中田さんから、返信が届いた。
『美花さん、頑張りましょう!まずは、ブライダルエステですかね…。俺、良いとこ知ってますんで紹介します!』
なぜ、中田さんがブライダルエステについて良い所をご存知かは、何となく恐いので掘り下げるのをやめておくとして、紹介されて行った先は、ベリーヒルズビレッジ内のオフィスタワー。そこに入るホテルの最上階にあたる53階だった。
1階から高速エレベーターに乗り、途中、10階、20階と止まる。
最初から乗る人は数名だったけれど、50階をすぎると、決められた人のみが入ることを許される、スイートルームがある階へと変わる。そのせいか、全く人はいなくなり、私だけがポツンとその空間に残った。
「お待ちしておりました、橘様。中田様よりお聞きしております。」
行った先は、一見様お断り、紹介のみをうたう、エステで。
エントランスは煌びやかではないけれど、落ち着いたソファやリビングテーブルが置いてあるスタイリッシュな空間。
通された個室は、完全に防音で同じ様に座り心地の良いソファに可愛らしいテーブル、ミニキッチンまで用意されていて、奥に、シャワー室と、背術専用の部屋があった。
施術室の向こう側に広がる窓の外の景色…都心を一望できる景色に思った。
…ものすごい高い所なのではなかろうか。
いや、標高(高さ)もだけど、値段も。
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「は?!田宮凪斗が何者か知らなかった?!」
月曜日、S Pに送迎されながら出社した私の元に「何事?!」と先輩であり、パートナーの依田さんが寄ってきた。
依田さんには…最初に報告したい。事のあらましを。
というわけで、契約結婚だということは隠しつつ、結婚のご報告。
「…嘘でしょ。美花…それは、証券会社勤務としてマズいのでは。」
「いや…はい。その…ウェブデザイナーと世界の100人は繋がっていたのですが…まさかあの田宮凪斗が自分の前にいる人だと思わなくて…。」
「うーん…まあね。お客様として現れれば、すぐにつながるけれど、プライベートで知り合ったら、中々わからないか…。それにしても田宮さんも自ら中々言わないなんてイイ男なのね!」
「よかったね!凄い人捕まえたじゃん!」と私の背中をバシバシ…叩く依田さんにどこかホッとする。いつもそうだけど、依田さんはさっぱりはっきりとしている。誰の話にも素直に一喜一憂してくれるし、けれど羨ましいとか、ヒガミ的なこともなく、「自分は自分」を貫く人だ。
そして…美人だし。
「あの…依田さんは、自分磨きとかしていますか?」
「そりゃ、もちろん。私ももう30歳だよ?するよ、それは。旦那もそこはお金かけて良いって言ってくれてるしね。母であり、仕事人である私にも気分転換は必要です。」
腰に手を当て、ドヤ顔で言う依田さんに少しクッと笑ってしまう。育児、家事、仕事のバランスをちゃんと旦那さんと一緒にうまく取っているんだな…。本当に依田さんは素敵。
「ちょっと!笑い事じゃないわよ?田宮凪斗の嫁何だから、相当頑張って自分磨きしないと。綺麗な花嫁、期待してるよ!」
そう…だよ。依田さんに惚れ直している場合ではなかった。
私…田宮さんに綺麗だと言わせなければならなかったんだ。
安心と安全を手に入れてホッとしたのも束の間、一難去ってまた一難。いや、今回は自分から呼び寄せたとも言えるけれど。とにかく…何とかしなければ。
崖っぷちに立った様な気持ちで、中田さんにメッセージを送る。
『え?田宮さんの好みですか?うーん…美花さんなんじゃないですかね?』
…ダメだ、中田さんは参考にならない。
じゃあ、真崎先生はどうだろうか。
『田宮さんですか?彼は、来るもの拒まずでしたからね。そういう意味では、モデルや女優、世界各国のセレブ達…誰に対しても『綺麗』なんていう人間的な心など皆無でしょう。そこが彼の長所ですから。』
真崎先生…即レスでサラッと言わないでください。余計に崖の淵に追いやられました…。
私…かなり無謀な賭けをしたよね、これ。
だって、世界のセレブやモデルや女優が、寄ってたかってかかったところで、『綺麗だ』という心を引き出せなかったんだよ?
そんな一介の庶民な私が…
どう考えても、平凡な顔貌の私が…
…難しくない?
はあと項垂れた私にまた中田さんからの返信が。
『美花さん、自信を持ってください!だって、あの社長がぞっこんなんですよ!他の女性に一ミリも心を動かされなかった社長が!』
…ごめんなさい。
私に対してもそういう意味では心を動かしていないんです。
『しかし。あるいは美花さんならあの社長に『綺麗だ』と言わせる事が出来るかもしれないと思います。』
いや、だから、真崎先生も。そこはギブアンドテイクの内容を知らないから…。
『よし!こうなったら、俺、協力しますよ!社長がデレデレになる所を見たいです!』
『社長のだらしない顔という、貴重映像を拝みたいので、協力します。』
…どうしよう。二人の闘志に火をつけた。
でも、田宮さんをよく知るお二人に協力して貰えるなら、心強い。
『よろしくお願いします!』
そう返信をしたら、既読にはなったけれど、そこからしばらく返信はない。
いや、お忙しい最中ではあったと思うけれど。
急にこう、返信が途絶えると不安になる。自分が後めたいから余計に。
と、心細くなったのも束の間。
中田さんから、返信が届いた。
『美花さん、頑張りましょう!まずは、ブライダルエステですかね…。俺、良いとこ知ってますんで紹介します!』
なぜ、中田さんがブライダルエステについて良い所をご存知かは、何となく恐いので掘り下げるのをやめておくとして、紹介されて行った先は、ベリーヒルズビレッジ内のオフィスタワー。そこに入るホテルの最上階にあたる53階だった。
1階から高速エレベーターに乗り、途中、10階、20階と止まる。
最初から乗る人は数名だったけれど、50階をすぎると、決められた人のみが入ることを許される、スイートルームがある階へと変わる。そのせいか、全く人はいなくなり、私だけがポツンとその空間に残った。
「お待ちしておりました、橘様。中田様よりお聞きしております。」
行った先は、一見様お断り、紹介のみをうたう、エステで。
エントランスは煌びやかではないけれど、落ち着いたソファやリビングテーブルが置いてあるスタイリッシュな空間。
通された個室は、完全に防音で同じ様に座り心地の良いソファに可愛らしいテーブル、ミニキッチンまで用意されていて、奥に、シャワー室と、背術専用の部屋があった。
施術室の向こう側に広がる窓の外の景色…都心を一望できる景色に思った。
…ものすごい高い所なのではなかろうか。
いや、標高(高さ)もだけど、値段も。
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