ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 腕の中で、千波さんがもそもそ動いているのを感じて目が覚めた。
「……千波さん……」
「あ、起きた?あのね、離してもらっていい?」
「ん?……あ」
 がっちりと、腕と足で千波さんをホールドしていた。
「ごめん」
 名残惜しく思いながら千波さんを離す。
 ほうっと息をついて、千波さんは上半身を起こした。
「手と足、はがしてもすぐに戻ってくるから、動けなくて」
 苦笑している。
「ごめん、無意識だった。離したくなくて」
 千波さんのほっぺたが赤くなった。
「もうちょっとここにいてよ」
 腕を引っ張ると、素直に横たわる。
 さっきのように、がっちりと捕まえた。
「はるちゃん、足重たい」
「あ、ごめん」
 足だけを外して、代わりに腕を巻き付け直す。
「おはよう、千波さん」
「もうお昼だよ」
「何時?」
「11時過ぎだった」
「そっか」
 頭をなでていると、千波さんがとろんと眠そうな顔になってきた。
 可愛くて、笑ってしまう。
「まだ眠い?寝てもいいよ」
「違う。はるちゃんが頭なでるから。気持ち良くて眠くなっちゃうの」
「じゃあ眠って」
「駄目、お腹空いた」
「……仕方ないなあ」
 軽くキスをして、腕を緩める。
「千波さん、シャワーしてきなよ。寝る前に軽く拭いたけど、汗流したいでしょ?」
「拭いたって……はるちゃんが?」
「うん。千波さんぐっすり眠ってたし」
「起こしてくれて良かったのに」
「起きなかったよ、何しても」
「……そ、そう……」
 恥ずかしそうに顔を背ける。
「ごめん、無理させて」
 千波さんは、返事の代わりに抱きついてきた。
「千波さん、明日まで、何か予定ある?」
「ううん、特には。来週は忙しくないだろうから、洗濯も後回しでいいし」
「じゃあさ」
 ちょっと体を離して、顔を見る。
「明日の夜まで、一緒にいてもいい?」
 千波さんが、目をぱちぱちさせた。
「日曜日の、夜まで?」
「うん。ここじゃなくても、千波さんちでもいいんだけど。着替えとかないだろうし、一回帰ってもいいし」
 今まで忙しかったから、土曜日に一泊しかしたことがなかった。
 1日以上一緒にいるのは初めてだ。
「それと、行きたいところがあるんだけど」
「どこ?」
「んー……買い物、かな」
 曖昧な言い方に、千波さんが不思議そうな顔をする。
「うん……わかった。場所は?」
 ちょっと離れたところにある、ショッピングモールを告げると、怪訝そうな顔をされた。
「そんな遠く?何買うの?」
「うん……虫除け?」
「虫除け?なんで疑問形?ならそこのドラッグストアでもいいんじゃ……」
「この辺じゃ売ってないんだよね」
「……よくわかんないけど、わかった。付いてく」
 じゃあ、と千波さんは起き上がった。
「早く行かないと、日が暮れちゃう」
 にこっと笑った。
 俺もつられて笑う。
「そうだね」
 俺も起きて、出かける準備を始めた。

 電車に乗って、ショッピングモールへ向かう。
 千波さんが、あ、と小さく声をあげた。
「どうかした?」
「うん、あの……」
 顔を赤くしている。なんだろう。
「お出かけ、初めてだね」
 えへへ、と笑う。
 そうか、こんな風に出かけるのは初めてだ。
「初デート、って言っていいかな?」
 恥ずかしそうに言う千波さんは、かぶりつきたいくらい可愛い。
「いいと思う」
 家を出てからずっとつないでいる手を、指をからめてつなぎ直した。いわゆる“恋人つなぎ”。
 千波さんと目が合うと、唇の端が自然に上がる。
 千波さんも笑ってくれる。
 この瞬間が、大好きだ。
 これを壊さないように、大切にしたい。
 今から向かう場所を思い浮かべた。
 寝る前に思い付いた、いい方法。
 うまくいくといいんだけど。



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