ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
17. 8月・2回目

千波



 今年も夏休みの時期がきた。
 私は、毎年お盆の時期をずらして、ゆったりと帰省している。電車で2時間強だから、混んでても我慢はできるけど、できるだけ人のいない時期にしていた。

 はるちゃんは、今年は法事もないからいつでもいい、と言って、みんなの休みが決まってから自分のを決めると言う。

 旅行とか行く?という話も出たけど、どこも混んでいそうで、人混みが苦手な私達は尻込みしてしまう。
 こんなところも気が合うね、と言って、2人で苦笑した。

 結局、私達の夏休みは重ならず、それぞれに帰省することになった。
 私はお盆の後に、はるちゃんはその直後になって、週末を入れて2週間近く会えないことになる。
 帰省する前の日、私の家に来たはるちゃんはぶーぶー言っていた。
「2週間も会えないとか、マジで無理……」
 暗い顔でしょんぼりしている。
 言えないけど、可愛い。
「連絡するから」
「やっぱり送る」
「ブッブー、だーめ」
 特急の乗り換え駅まで送りたい、と言っていたのを、説き伏せて出社するようにしたのは私。だって、はるちゃんは夏休みまでに終わらせなきゃいけない仕事を抱えているのだ。
「仕事しなさい。終わらないよ?」
「千波さんが冷たい……」
 ジトっと私を見るはるちゃんは、実家から帰る直前のケンさんによく似ている。
 私は、ケンさんにするように、頭をなでた。
「ちゃんと、これつけておくから。ね?」
 ネックレスと指輪を見せる。

 先月買ってもらったそれは、毎日私の右手と首元を飾っている。
 ふとした時にそれを見たはるちゃんが、満足そうに笑う顔が可愛くて、ずっとつけていたのだった。

「じゃあ約束」
 そう言って顔が寄ってきたので、軽くキスでもするのかと思ったらガバッと押し倒された。
 はるちゃんが私の上で妖しく笑う。
「淋しくないように、覚えとく」
「……何を?」
「千波さんの、いろんなところ」
 そして、熱いキスが降ってくる。
 私も会えないのは淋しいから、それを伝えるように背中を抱きしめた。



 ネックレスと指輪を買った時、店員さんがこっそり教えてくれた。
 はるちゃんが、前にこのショップに来た時の話。
 店頭ディスプレイに飾っていた『波』のネックレスを、はるちゃんはずっと見ていたんだそうだ。
 あんまり熱心に見ているから、普段は外に出ない店員さんがドアを開けて声をかけた。
 はるちゃんは恐縮しながら中に入って、『波』のアクセサリーコーナーを見ていた。長い間、何かを考えていたらしいけど、やがて「今日は帰ります」と言って、帰って行ったんだそう。
 そして、こうも言っていたらしい。
「また来ます。次は一緒に来れるといいんですけど……」
 店員さんは、うふふと笑った。
「お客様のお名前が千波さんだから、これを贈りたかったんですね。お客様にとってもお似合いです。虫除けしたくなる気持ちもわかりますよ」
 そう言って、店員さんは綺麗にウィンクした。
 恥ずかしくて、照れくさくて、でも嬉しかった。
 虫除けなんて必要だとは思わないけど、はるちゃんの気持ちは嬉しかった。
 ネックレスと指輪を見るたびに、このことを思い出す。
 はるちゃんの気持ちと一緒にいられるみたいで、安心できる。
 大切に、しようと思った。



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