ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 次の日。
 千波さんは熱が下がらず、また会社を休んだ。
 『心配しないで仕事して』とメッセージが来た。
 心配しないなんて無理だけど、仕事には頑張って集中した。
 でも定時には終わらなくて、焦りながら進めていたら、筒井さんがやってきた。

 休憩スペースで話をする。
「千波、まだ熱が下がらないんだって?」
「はい……」

 昼休み、千波さんにメッセージを送ったら、まだ熱が高いから病院に行く、と返事が帰ってきた。
 病院で注射したらしいので、今は熱は下がってるかもしれない。

 それを説明すると、筒井さんは険しい表情をした。
「昨日、帰りに、千波の家に行ったよね?」
「はい」
「だからだね」
「へっ?」
「今日は、行くのやめなさい」
「え……なんでですか?」
「千波が疲れるから」
「は?」
 筒井さんは、小さくため息をついた。
「千波が、他人がいると眠れないっていうのは知ってるでしょ?」
 知ってる。例外はケンさんと俺、っていうのも知ってる。
「それね、病気の時が一番顕著に出るらしいのよ」
 どういうことだと思っていると、筒井さんが説明してくれた。

 千波さんは、体調が悪い時はとにかく1人で寝ていたいこと。
 他人がいると気を遣ってしまって、体が休まらないこと。
 家族でも同じ。例えお母さんでも駄目なこと。

「千波の前の彼氏が最悪で、心配で帰れないとか言いつつ、無理に居座って、千波の世話をしたがったんだって。帰ってって言っても帰ってくれないし、あんまり言うと怒り出すし。千波もお手上げで、私が行ってやっと帰ってもらったのよ。その直後、別れてた。原因は他にもあったみたいだけど、この時にもう無理だって思ったらしいよ」

 『心配で帰れない』『世話をしたがった』
 ずずん、と刺さった。

「今日も行くってメッセージ送ってみなよ。やんわりでも、断られたらやめておきな」
 言う通りにメッセージを送ってみた。
 まだ少し仕事があるから、ちょっと遅くなるけど行く、と書いたら、すぐに返事が来た。

 ーーー大丈夫。ありがとう。熱も下がってきたし、もう遅いから帰って。

 『帰って』
 千波さんの声が、頭の中に響いた。

 俺の顔を見て、返事の内容を察したらしい筒井さんが、やっぱりという顔をする。
「今日休ませてあげれば、明日は無理でも明後日には出勤してくるから」
 本当に、大丈夫なんだろうか。
 知らないうちに、倒れてたりしないだろうか。
「心配なのはわかるけど、熱は下がってきてるんでしょ?どうしてもって言うんなら、明日にしなさいよ」
 筒井さんは、また小さくため息をついた。
「元気な時は須藤君は例外かもしれなかったけど、今は熱は下がってないからね。千波が『1人じゃなきゃ駄目』って思い込んでるのかもしれないし。とにかく今日はそっとしといてあげて」
「……はい……」
 フロアに戻る時に、筒井さんに励まされるように背中をぽんぽんと叩かれた。

 俺は今まで、何ができるんだろうって考えていた。
 何もしないのが一番いいだなんて、思ってもみなかった。

 やっぱり俺は、心配しかできない。

 深いため息をひとつ、うなり声も一緒に吐き出した。



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