ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
18. 9月・2回目
千波
はるちゃんと2度目のお出かけデートは、前回と同じショッピングモール。
はるちゃんの友達の結婚祝いと、結婚式用のネクタイを買いに来たのだ。
男性のフォーマルファッションの店は限られていたから、ちょっと回って見たら、ネクタイは、すぐに決まった。
深いグリーンの小紋柄。
結婚式の定番ではないけど、落ち着いた感じで、持っているダークグレーのスーツにも合いそうだ。お店の人もおすすめだった。
選んだのは私だったけど、はるちゃんも気に入ったみたいで、即決した。
同じ色柄のポケットチーフもあったので、私からプレゼントすることにした。
最初は遠慮されたけど、私が言い張ると「今度お返しさせて」と言って受け取ってくれた。
結婚祝いを選ぶ方が難しかった。
新郎新婦は、はるちゃんの保育園からの友達。余りに近過ぎて、どんな物を選んだらいいのかわからないらしい。
「無難なところだと、夫婦茶碗とかペアのカップとか、うーん……タオルとか?」
「なんか、どれもピンと来ないなあ……」
「私はその2人を知らないから、なんとも言えないんだよねえ」
「そうだよね……」
雑貨のお店を見て回ったけど、どれもはるちゃんにはいまいちのようだった。
「自分がもらうなら、何が欲しい?って考えてみたらどう?」
「自分がもらうなら?」
「うん」
本人達に欲しい物を聞いても、気持ちでいいからと大した返事が返ってこないらしい。なら、視点を切り替えようと思った。
はるちゃんはちょっと考えて、にへっと笑った。
「俺はもう、千波さんと結婚できるならお祝いなんかいらないよ」
その笑顔は可愛くて、一瞬言葉に詰まる。
「そ……そうじゃないでしょ」
抗議しながら、顔がほてるのを感じる。
不意打ちで、そういうことを言わないでほしい。
そして、当然のように私と結婚することになっているのが、嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。
はるちゃんは、そんな私の頭をなでる。
「ごめんごめん。何かあるかな……」
そんな感じで話しながら、有名な雑貨チェーン店に入ろうとした時だった。
「須藤?」
後ろから、男の人の声がした。
振り向くと、茶髪と黒髪の2人の男性がこちらを見ている。
「あれ、なにしてんの」
はるちゃんがそう言いながら、2人に寄っていく。
手を離さないので、私も引っ張られて行く格好になった。
「ちょっと買い物。……もしかして、千波さん?」
茶髪の人が、つないだ手を見てニカッと笑う。
「上手くいったんだ」
「あーそう……本田千波さん」
はるちゃんが照れくさそうに私を紹介する。
私は手を離して、頭を下げた。
「はじめまして、本田です」
顔を上げると、はるちゃんは2人を手で示す。
「東森と、谷山。大学の友達。ゴールデンウィークに会ったって話したヤツら」
「東森です」
茶髪の人がにこにこと頭を下げる。
「谷山です」
黒髪の人も、愛想がいい。
ゴールデンウィークに会ったっていう話には覚えがある。確か同じゼミの人達だ。
「ちょうどいいよ。相談に乗ってもらえば?」
谷山さんが、東森さんに言っている。
私達が顔を見合わせていると、東森さんが頭をかきながら言った。
「あのさ、彼女の誕生日プレゼント買いに来たんだけど、何にしたらいいか困ってて」
「えっ、彼女?うまくいったの?」
はるちゃんが驚いている。
「ついこの間、付き合うことになった」
へへ、と恥ずかしそうに東森さんが笑う。
谷山さんが苦笑して言う。
「本人に何がほしいか聞けばいいのに、サプライズであげたいって俺んとこ来てさ。絶対人選間違えてるよ」
「一番家近いし、他に思い付かなかったんだよ」
「谷山よりは女の人に聞いた方がいいよな、あ……」
3人の視線が私に集まった。
「え……私?」
東森さんが私に頭を下げる。
「お願いします!相談に乗ってください!」
「あ、あの……」
困ってはるちゃんを見上げると、はるちゃんは苦笑する。
「千波さんの思うことを言ってあげるだけでいいから。お願いできる?」
そうは言われても、東森さんのことも彼女さんのことも知らないのに。
でも、困ってるみたいだし、はるちゃんの友達だし、なんとか頑張ってみることにした。