ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
お昼ご飯を食べて、少しぶらっとして、早目に帰った。
はるちゃんの家に帰って、早速スーツとネクタイを合わせてみる。
「どう?」
洗面所の鏡でネクタイを結んできたはるちゃんは、凄くカッコ良かった。思わず見とれてしまう。
「大丈夫かな」
「うん。いいと思う」
ポケットチーフのたたみ方を教えて、実際に入れてみると、ますますカッコ良くなった。
「わあ……カッコいい」
思わず口に出すと、はるちゃんは赤くなった。
「おかしくないなら、いいけど」
「大丈夫だよ」
抱きつきたいけど、スーツがシワになるからやめておこう、と思った。
はるちゃんがスーツを脱いでいる間、ベッドに座ったら、猛烈に眠気が襲ってきた。
初めて会った人と話したからか、出かけたからか、疲れが吹き出してきたみたいだ。
「疲れた?」
はるちゃんが横に座って、私を抱き寄せる。
「少し寝る?」
「ん……」
そのままベッドに横になる。
はるちゃんは私を抱き抱えて、頭をなでてくれた。
気持ちいい。
はるちゃんはあったかくて、やっぱり私を眠らせる何かを発している。
「千波さん、さっき……」
「ん……?」
さっきって、いつの話だろう。
眠い頭で考えるけど、わからない。
「……いや、今日はありがとう」
「なにが……?」
「東森のこと。あいつ、凄く感謝してたよ」
「そう……?なら、良かった」
息を吸い込むと、もうすっかり慣れたはるちゃんの匂いがした。
はるちゃんが、ぎゅっと私を抱きしめた。
力を緩めて、また頭をなでる。
「眠っていいよ」
その声も心地良くて、私は気持ち良く眠りに落ちた。
ジュウっという音で目が覚めた。
カーテンが閉まっていて、外はもう暗くなっているみたいだ。
横にいたはずのはるちゃんは、キッチンにいてフライパンを振っている。
背が高くて、しっかりした背中。
振り返ったら、きっと優しい笑顔で「千波さん、起きた?」って言って、来て抱きしめてくれる。
それだけで、十分なはずなのに。
この、自分の中にあるもやもやは消えない。
これは、嫉妬だ。
自分より、若くて、可愛くて、何も考えずに、はるちゃんの隣に立てる人達。
私が、守りたいその場所に入ろうとする人達への、嫉妬。
はるちゃんの隣にいたい。
素直に笑って隣にいさせて。
起き上がると、はるちゃんが気が付いた。
振り返って、優しく笑う。
「千波さん、起きた?」
ほらね、いつものはるちゃんだ。
はるちゃんは、火を止めて、私の横に座った。
「疲れ取れた?ぐっすり寝てたね」
そう言って、私を抱き寄せる。
私も、抱きついた。
普段はされるがままだから、はるちゃんは驚いたみたいで、一瞬動きが止まった。
でもすぐに、抱いたまま頭をなでてくれる。
「チャーハン作ったよ。食べる?」
私は頷いたけど、抱きついたまま動かずにいた。
はるちゃんは、黙って、子どもをあやすように、私をなでてくれる。
「はるちゃんのチャーハン好き」
「そう?」
「うん。おいしいよ」
「そう言ってもらえると嬉しい」
それから、黙ってしばらく、そのままでいた。
これじゃ、どっちが年上なんだかわからない、と思った。
でも、はるちゃんに抱きついていると、不安は少しなくなる。
もう少し、もう少し、と、長い時間、私ははるちゃんに抱きついていた。