ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜

隆春




 あのデートの日から、2週間経った。

 千波さんは、普通にしているように見える。
 でも、時々暗い顔をして、何かを考えているようだ。

 多分、原因は、あの逆ナンだろうとは思っているけど、俺はあの時、本当に一言も話していないし、相手をろくに見てもいなかった。誤解させた訳じゃないと思う。
 だから、あのことで、千波さんが何を思っているのか、わからない。

 でも、普通にしようとしているから、俺も普通にしていた。
 何があったのか聞こうかとも思ったけど、なんとなく聞いちゃいけない気がして、千波さんから話してくれるのを待つことにした。

 あの日、珍しく千波さんから抱きついてきた。
 驚いたけど、千波さんが何も言わないから、俺も黙って抱きしめた。
 頭をなでたら、気持ち良さそうにすり寄ってきた。
 もしかして甘えられてるのか、と思った。
 凄く嬉しくて、そのまま押し倒したくなったけど、我慢した。
 千波さんから離れるまで、長い間、そのままでいた。

 それから、千波さんは、何かを考えている。





 千波さんは、今日は定時で帰った。中村さんと飲みに行くそうだ。下フロアのチームにいる俺達の同期の佐藤葵も一緒らしい。多分筒井さんも合流している。
 明日は土曜日で休みだから、楽しんでくると言っていた。

 俺は、小田島さんに連れられて、いつもの居酒屋にいる。
「最近須藤と飲んでないなあって思ってさ」
 しらじらしく言ってるけど、そうじゃないのはわかっている。
 何故なら、さっき俺と久保田が話しているのを聞かれてしまったから。



 今日は定時でほとんどの人が帰ってしまい、フロアに残っているのは俺と久保田だけになった。
 俺は、もう一仕事してから帰ろうと作業していた。久保田も、同じ仕事の資料整理をしていた。
 小一時間して、作業が終わった時だった。
 久保田が、俺の横に立った。
「……本田さん、何かあったんですか?」

 やっぱり、と思った。
 久保田がやっていた資料整理は、週明けにやってもいい仕事だった。今日、残ってまでやることじゃない。

 千波さんの変化は本当にささいだったから、多分周りの人達は気付いていない。
 でも、こいつは違う。

「お前が心配することじゃない」

 会議室で話してから後、久保田と千波さんのことを話すことはなかった。
 仕事では普通。俺にも千波さんにも。
 思った通り、千波さんを困らせるようなことはしなかった。

 ただ笑顔でいてほしい。それだけ。

 だから、千波さんの最近の様子を見逃さないだろうと思っていた。

「やっぱり何かあったんですね」
 いつもの腹黒笑顔は消えている。
「須藤さんが席を外してる時、須藤さんの席を見ながら暗い顔してます」
「……そう」
 そうか。俺がいない時には、表に出てるんだ。
「もう2週間近くそんな感じですよね」
 俺が見られない千波さんのことを教えてくれるのには感謝するけど。
「わかった」
 それだけ答えて、パソコンをシャットダウンした。
 でも、そんな返事で久保田が納得する訳がない。
「言いましたよね。次は本気で奪りに行くって」
「次なんか無いって、俺も言ったよな」
 座ったまま久保田を見上げる。
 綺麗な顔は下から見るとちょっと怖く見えるんだな、と思った。
「俺だって、放っといてる訳じゃない」
 そう言って、立ち上がる。
「見守るしかない時もあるんだ……」
 鞄を持って振り向いたら、困った表情の小田島さんがいた。
「……ごめん、スマホ忘れた……」
 小田島さんのそんな顔は初めて見た。



< 118 / 130 >

この作品をシェア

pagetop