ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
居酒屋を出たら、千波さんからメッセージが入った。
ーーー今終わったよ〜
〜が付く時は、ちょっと酔ってごきげんな時だ。
「おっ、本田か?」
半分より大分多く払ってくれた小田島さんが、おつりを受け取って出てきた。
「今終わったって言ってます」
「二次会あるのか?」
「さあ、どうなんですかね」
話しながら駅に向かうと、ちょっと前に賑やかな4人組がいた。千波さん達だ。
「見つけちゃったなあ」
小田島さんが呟いたら、まるで聞こえたかのように筒井さんが俺達を見つけた。
「あっ、小田島さん!」
えっ、と他の3人が振り返る。
「見つかっちゃったなあ」
また小田島さんが呟く。
「俺、嫌な予感しかしないんだけど」
「あ、中村さん……」
振り返った中村さんの目が座っていた。酔っ払っている。
「ちなみせんぱ〜い、いっしょにかえりましょ〜」
相変わらず千波さんにべったりだ。
「美里ちゃん、方向逆だからなあ」
千波さんもにこにこふらふらしている。酔っているらしい。
「小田島さん、ちょうど良かった!」
筒井さんが、笑顔で走り寄ってきた。
「方向同じでしょ。美里ちゃん、よろしくお願いしますね」
笑顔のまま、小田島さんを引っ張って行く。
「やだよ、酔っ払った中村は勘弁してくれ」
「そんなこと言わないで。葵ちゃんも付けますから」
「佐藤もかよ、そんなおまけいらないよ」
「葵ちゃんは酔っ払ってませんから」
あれよあれよという間に、中村さんと佐藤さんを押し付けられた小田島さんは、タクシーで帰って行ってしまった。
ふう、と筒井さんは一息ついた。
「飲ませ過ぎちゃった。千波も」
「えっ?」
千波さんが、にこにこ笑って横に来る。
「んふふ〜お疲れ様、すどーくん」
ちょっとロレツが怪しくなっている。
ふらっとしたので腕をつかんで支えた。
それを見た筒井さんが、にかっと笑った。
「じゃ、後よろしくね」
「えっ」
「私帰るから。じゃあね、千波。須藤君いるから安心でしょ?」
千波さんは、ふにゃ〜っと笑う。
「うんだいじょうぶ〜」
「須藤君、助かったわ。お疲れ〜」
筒井さんは、さあっと、自分の沿線に向かって行ってしまった。
急に、右腕があったかくて重くなった。
千波さんが、つかまっている。
「千波さん、大丈夫?水いる?」
「もってるもーん」
鞄を探って、ペットボトルを出して、俺に見せる。
「ほらね〜」
大分ごきげんなようだ。
「じゃあまず一口飲んで」
俺は笑顔で言った。
千波さんが、ぽかんとした。
「どうかした?」
笑顔のままで聞くと、千波さんは首を横に振った。
「なんでもない」
そして、水を飲む。
「じゃあ帰ろうか」
千波さんは、じっと俺の顔を見ている。
「なんかついてる?」
「……はるちゃん、機嫌いいね」
「いや、別にそんなことないよ」
「なんか、にこにこしてる」
「そう?」
俺が安心するのは、千波さんが笑ってる時。
だから、俺も笑ってみたんだけど。
「楽しかったみたいだね」
そう言うと、千波さんも笑った。
「うん、楽しかった。葵ちゃんとも久しぶりにおしゃべりした」
楽しそうな千波さんを見ると、こっちも楽しくなってくる。
「はるちゃんは?」
「ん?」
「はるちゃんは、楽しかった?小田島さんと飲んでたんでしょ?」
「うん、バカ話して盛り上がった」
「えーどんなバカ話?」
2人でにこにこしながら改札を抜ける。
千波さんは俺の腕につかまったままで、柔らかいモノが腕に当たっている。
俺はニヤけないように、気を付けながら笑顔を保った。
ホームに上がった時に、スマホがブルッと震えた。
見たら、東森からメッセージが入っていた。
開けて見ると、猫の抱き枕を抱えた東森の彼女が笑っている写真が送られてきていた。
「千波さん、見て」
写真を見せると、千波さんの表情がパッと輝いた。
「これ結衣ちゃん?喜んでもらえたんだね」
「うん、ありがとうございましたって」
「良かった〜」
と、にこにこしていた千波さんの表情が、少し曇った。
また、何かを考えている。
俺は、知らないフリをして、入って来た電車に目をやった。
電車は結構混んでいたけど、ちょうど目の前の席が空いたので、千波さんを座らせる。
千波さんは酔ってるし、考え事があるならちょうど良い。
電車を降りるまで、千波さんは黙って何かを考えているみたいだった。
駅を出てからは切り替わったらしく、今日の女子会のことを話していた。
気を抜くとふらふらしてしまうので、また俺の腕につかまっている。
手をつなぐより密着度が高い。これはこれでいいな、と思った。
千波さんの家に着いた。
鍵を開けようとする千波さんを抱き寄せる。
前にハグは落ち着くと言っていたし、俺も安心するから、と思っていた。
頭をなでると、千波さんが顔を上げた。
凄く淋しそうな、不安そうな表情だった。
え、なんでだ。
ハグは落ち着くんじゃなかったのか?
「はるちゃん……帰っちゃうの?」
凄く小さな声で、千波さんが言う。
「え……」
「……ここでこうする時は、帰っちゃう時だよね」
確かにそうだ。
今日はなんの約束もしていなかったから、帰るつもりでいたんだけど。
「帰りたい?」
じっと見つめられる。
ドクンと、体が波打った。
「……今、家に入ったら、止められないけど」
千波さんが頷く。
「いいの?」
もう一度頷く。
可愛くて、可愛くて、我慢できない。
キスをしながら、千波さんの手から鍵を取ってドアを開ける。
キスを深くしながら、中に入って、ドアを閉めて、鍵をかけた。