ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
19. 10月・2回目
千波
はるちゃんが優しい。
いや、今までも優しかったけど、更に優しい。
あのお出かけデートの後。
気持ちの整理がつけられなくて、私はずっともやもやしていた。
あの時、あの逆ナンしていた女の子達は、普通にこっちを見ていただけだったと思う。それを、なんだか怖いと思ってしまった、そんな風にねじ曲げてしまった自分が嫌だった。
全ては、嫉妬。
嫉妬する自分も嫌だったけど、そんな自分を受け入れられない自分がもっと嫌だった。
嫉妬なんて、誰でもするのに。
私は聖人君子なんかじゃないんだから。嫉妬したっていいのに。
怖いんだ。
嫉妬する、醜い私を、はるちゃんに知られるのが。
そんな自分を隠している、ずるい私を、はるちゃんに見られるのが。
もし、嫌われたら。もし、あきれられたら。
もし、隣にいられなくなったら。
いつのまに、こんなに好きになってしまったんだろう。
その存在は、どんどん大きくなっている。
失うのが、怖くなる。
想像すると、目の前が真っ暗になって、動けなくなってしまうほどに。
考えていると、頭の中はぐるぐる回って、回り過ぎて思考停止してしまう。
そんなことを繰り返して、ぎこちない態度を取る私に、はるちゃんは優しく接してくれる。
にこにこ笑って、心配してくれて。
私を丸ごと包み込むように。
その優しさの中に、このままぬくぬくといてもいいんだろうか。
私は、何も返せていないのに。
そこまで思ってしまうと、何をするのも怖くなる。
メッセージ一つ送るのにも躊躇してしまう。
失いたくないのに、はるちゃんに会うのも怖い。
そんな風にぐるぐると考えていた矢先、下フロアのチームから応援の要請があった。葵ちゃんのいるチームだ。
こんな時にはるちゃんと離れるのは不安だったけど、海外でもないし、フロアが違うだけ。会おうと思えばいつでも会えると思って、行くことにした。
書類仕事や打ち合わせが多い案件だったから、フロアが違うと都合が悪い、ということで、臨時にデスクまで用意してもらい、しばらくそっちに通うことになった。
「千波先輩」
声をかけられてハッとする。
「葵ちゃん、どうしたの?」
「昼休みです。行かないと、美里に文句言われちゃいますよ」
「あっごめん、行こう行こう」
今日は、美里ちゃんと3人でランチの約束をしている。
待ち合わせは1階ロビー。エレベーターを降りると、美里ちゃんが手を振っている。
「千波先輩、お久しぶりです」
「今朝会ったよ、美里ちゃん」
美里ちゃんはぶうっと口を尖らせた。
「だって、いつも隣にいた先輩がいないんですもん。淋しいです」
「もう2週間も経つんだから慣れてよ」
「そうだよ。千波先輩にはまだあと少しいてもらわないと困るんだから。もういっそのこと、こっちに来ませんか?」
「ちょっと葵、千波先輩を取らないでよ」
やり取りしている2人を促して外に出ようとしたら、外からはるちゃんが入ってきた。多分客先から帰ってきたんだろう。
私を見付けると、優しく微笑む。
「お疲れ様です」
私も笑顔を返した。
「おかえりなさい。お疲れ様」
「昼ですか?」
「うん。久しぶりに美里ちゃんとランチなの」
「いいですね。じゃあ行ってらっしゃい」
頷いて、はるちゃんに背を向ける。
はるちゃんは、何も言わずに見守ってくれている。
会うと笑ってくれるし、穏やかに話してくれる。
きっと聞きたいこともあると思うけど、黙って待っててくれている。
そう思うと、早く気持ちを整理しないといけないと思う。
でも、私は、私に向き合う勇気を、まだ持てない。