ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


「……私も、嫉妬した……」
 はるちゃんの胸に顔を埋めたまま、言った。
「あの逆ナンしてきた女の子達に、嫉妬した。会社の、はるちゃんのファンの子達にも嫉妬してる。はるちゃんの気持ちはちゃんとわかってるのに、私、自信なくて」

 怖い。あきれられるかもしれない。嫌われるかもしれない。
 でも、気まずいまま、はるちゃんの隣では笑えない。

「私がはるちゃんと同期だったら、気にしなくていいのに。もっと女らしくて可愛いかったら、何も悩まずに隣にいられるのにって思ったの。……気にしても、どうしようもないってわかってるけど、気にしちゃって、だから……」
 もうなんて言っていいか、わからなくなる。
 はるちゃんは、黙って私の話を聞いてくれていた。
 言葉が途切れると、ぎゅうっと抱きしめた。
「……嬉しい」
「え?」
「千波さんが嫉妬してくれた」
 顔を見ようとしたけど、はるちゃんは見せてくれなかった。はるちゃんの肩に口が埋れて、口が開けない。
「今、絶対顔赤いから見せない」
 見たいけど、頭をしっかりと押さえられていて動かせない。
「小田島さんに言われたんだ。千波さんと俺は似てるって」
 似てる……そんなこと言われたんだ。
「お前ら似てるから、自分がしてほしいことをしてみたらって言われたんだ。だから、やってみた」
 自分がしてほしいこと……。

 私が、はるちゃんにしてほしいことが、はるちゃんが私にしてほしいこと?

「俺は千波さんに笑っててほしいから、俺も笑ってみた」

 最近の、はるちゃんの優しい笑顔を思い出す。
 その笑顔を見ると安心できた。
 そうだったんだ。
 じゃあ、私が笑うと、はるちゃんは安心できるってこと、だよね。

「俺も、自分が千波さんより年上だったらって思うよ。落ち着いてて、大人で、経済力もあって、包容力もあって、って。そしたら、何も考えなくても千波さんの隣にいられるのにって」

 それは、私がさっき言ったことと同じ。
 同じことを、考えてた。

「小田島さんが言った通り、俺達似てるんだね。考えてること同じだった」
 はるちゃんは顔を見せてくれて、優しく笑った。
「でもさ、生まれた年が違ってたら、会えてなかったかもしれないし、今の方が良かったよ、きっと」
 そう言って、軽くちゅっとキスをする。
「あとさ、千波さんは可愛いよ」
「えっ……」
 急に言われて、驚くと同時に恥ずかしくなる。
 はるちゃんは、照れもせずに続けた。
「さっき言ってたでしょ。もっと女らしくて可愛かったらって。千波さんは、充分女らしいし、俺には可愛くしか見えないから」
 優しい目。胸のあたりがあったかくなる。
「そのままでいいんだよ。だから、安心して笑ってて。できれば、俺の隣で」
 そしてまた、ぎゅっと私を抱きしめる。
 私も、はるちゃんを抱きしめた。
「はるちゃんも、カッコいいよ……」
 私は照れくさくて、胸に顔を埋めたまま言う。
「スーツ姿はいつも見とれちゃうし、買い物してる時も、一緒に歩いてる時も、カッコいい」
 はるちゃんの手の力が抜けた。
 体を離して。
 私の顔を見たいらしいけど、見られたくないからうつむく。
「一番カッコいいのは、仕事してる時で……いつも見とれちゃいそうになるから我慢してる……」
 あ、顔がほてってきた。
 と思ったら、キスされた。
 熱くて、深いキス。
 いきなりだったから準備ができてなくて、息が苦しくなる。
 腕をたたいたら、一旦離してくれたけど、またすぐにキスされる。
「千波さん……可愛い……」
 キスの間から聞こえる、切なげな声。
「嫉妬しても、何しても、可愛くて仕方ない……大好きだよ」
 耳元でささやかれる。
 体がしびれて、力が抜ける。
 そのくせ、体中が熱くなる。
「ごめん、俺……我慢できない」
 熱を持った目を見たら、私も我慢なんてできない。
 頷く代わりに、ぎゅっと背中を抱きしめた。



 はるちゃんは、私を受け入れてくれた。
 何も怖がることなんてなかった。
 私は、私のままでいいと言ってくれた。

 じゃあ、反対なら?

 はるちゃんは、はるちゃんのままでいい。
 私は、どんなはるちゃんでも受け入れられる。

 お互いを思う気持ちだけは、誰にも負けない。
 それさえわかっていれば、大丈夫。




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