ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
4. 7月
隆春
7月に入っても、まだ梅雨は明けない。
ジメジメした日が続く中、小田島さんと外周りに出かけるようになった。
直接顧客と話をするのは、凄く緊張する。
小田島さんは話をするのが上手い。
今のうちにテクニックを盗んでおきなよ、とのリーダー磯貝さんのアドバイスに従い、会話に耳を傾ける。
一緒に行く営業の人とも段々顔なじみになっていた。
「須藤君て、珍しいよね」
移動中、電車の中で、営業部の羽田さんに言われる。
「システム課の新人って、外周り嫌がる人多いのに」
羽田さんは小田島さんと同期の29歳。来週誕生日を迎えるらしい。
「仕事だから行くけど渋々、の人多いんだけどなあ」
「人より機械相手の方が楽だからな」
小田島さんが苦笑する。
「担当を持つとまた変わるけど」
「そうだね。でも担当持つ前に、嫌がらずに来る人って珍しいよ。ああ、今年はもう1人いるよね」
「井上君ですか?」
「そうそう。彼はいいよ〜。なんでシステム課行っちゃったんだろ。そのうち営業に引っ張られるかもね」
井上君は、明るさとコミュ力がずば抜けている、と評価されていて、先輩達の外周りに引っ張りだこらしい。
「須藤君もさ、ウチ来ない?」
羽田さんがにっこり笑う。
「ウチのホープを引き抜こうとするなよ。そっちの新人はどうしたんだよ」
「いるよ、ちゃんと頑張ってるよ。でもさ、優秀な人材は多い方がいいだろ。俺はお前のこともまだあきらめてないからな」
「はいはい」
小田島さんが、営業に、ってことか。
顧客と話しているところを見たら、スカウトしたくなる気持ちもわかる。
「あれ、今日雨降らないんじゃなかった?」
羽田さんが窓の外を見て言う。
晴れた空の向こうに、黒い雲が見えていた。
会社に戻って少し作業をしていたら、外がどんよりと暗くなってきた。
今日は貴重な梅雨の中休みだと思っていたのに、やっぱり降りそうだ。
隣の席からため息が聞こえた。
「千波先輩、どうかしたんですか?」
「今日、傘忘れてきちゃったんだよね。帰るまで保つかなって思ってたんだけど、降りそうだと思って」
「私の傘貸しますよ。置き傘もありますし」
「そうだね、借りようかな」
本田さんは、もう一度窓の外を見て、仕事に戻った。