ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
本田さんを、可愛いと思う。
一度そう思ったら、止められなかった。
緊張したのも、ドキドキしたのも。
あの、心地良い声を、ずっと聞いていたいと思ったのも。
離れていく手を追いかけたのも。
素直な笑顔を、ずっと見ていたいと思ったのも。
そうか。
俺、本田さんが好きなんだ。
なんとなく感じていたもやもやも晴れていく。
そうか、と、何度もくり返す。
本田さんの笑顔、苦笑する顔、心配そうな顔、楽しそうな顔、困った顔、ちょっとむくれた顔、真剣な顔。
いろんな表情を思い出して、幸せな気分になる。
心地良い、ソフトな声を思い出す。
須藤君、と呼ばれるだけで、心が浮き立つ。
ありがとう、と今日何度も聞いた嬉しそうな声。
降っている雨の音に混ざって、本田さんの声が聞こえるような気がして、いつまでも雨がやまないでほしいとさえ思う。
そんな風に、浮かれて家にたどり着いて、思い出した。
本田さんには『ケンさん』がいる。
実家に帰った時しか会えなくて、ラブラブで。
遊ぶ時にははしゃいで可愛くて、ずっと側にいて癒してくれる、大人の男。
『実家に帰らないと会えないんだもん、淋しいよ〜』
『でもね、遊ぶ時はまだまだはしゃいじゃって、子どもっぽくて可愛いよ』
『ずっと側にいてくれてね、癒されるんだよね〜』
『うん。リフレッシュしてきたんだ〜』
部屋に入って、ドアを閉めて、頭をゴン、とドアにつける。
そうか。
好きだ、と思う前から失恋してたのか。
年下だしな。5つも。
仕事もまだまだだし、無口でわかりにくいって言われてたしな。
大人で癒せる『ケンさん』にはかなわないんだろうな。
ていうか、本田さんにとって、俺はそんな対象にすら入っていないに違いない。
1人で浮かれて、落ち込んで。
会社を休みたかったけど、今日は外周りだし、本田さんに会えると思うと自然に足が向いた。
失恋確定なのに、未練がましいだろうか。
見ているだけならいいんじゃないか、と、少女漫画みたいなことを思い浮かべる。
我ながら情けなさ過ぎて、ため息をつくしかなかった。