ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
帰りの電車は、実家に呼び出された小田島さんと一緒だった。
いつまでも独り身の息子を心配する両親に定期的に呼び出されるらしい。
今日は結構酔っているみたいだけど、それでも行かないとうるさいんだ、と言っていた。
「さっきさ」
つり革につかまりながら、小田島さんが言う。
さっきっていつだろう、と思って小田島さんの方を向く。
「本田の話の時、一瞬須藤に振ったけど」
あの『須藤は、本田だろ』ってやつか。
「あれ、みんなの手前、冗談って言ったけど、冗談じゃない」
「え……」
俺は固まった。
冗談じゃない。冗談じゃないってことは……。
「須藤は、本田には笑うんだよなあ」
「……」
「俺にもちょっとは笑ってくれるんだけどさ、本田にはちゃんと笑うんだよ。無口で無表情でクールって評判だけど、本田の前ではそんなこと全然ねーの」
何も言えない。
「笑うし、しゃべるし、焦るし、赤くなったり、照れたり、見てるこっちが恥ずかしいわ」
小田島さんは、ニヤッと笑った。
「ま、俺はなまあったかく見守ってやるからさ、頑張れよ」
頑張れって言われても……どうしようもないんだ。
小田島さんは知らないんだろうか。
「……本田さん、彼氏いますよね」
小田島さんが、目を丸くして俺を見る。
「嘘だろ。そんな話知らねえぞ」
「5月の連休明けに言ってましたよ」
「え、そんな前?」
小田島さんは、ぶつぶつ言いながら考えている。
「実家の方にいるらしいですけど」
これ以上は言いたくなかった。ラブラブとか、癒してくれるとか。
「実家……?遠距離ってことか?」
「まあ、でしょうね」
小田島さんは、うーんと考え込んで、パッと顔を上げた。
「あっわかった」
そう言って、俺の顔を見て、ニヤアっと笑った。
「須藤、それ多分違う」
「は?」
「本田にちゃんと聞いてみ。ごめん、俺ここだから」
「え、小田島さ……」
じゃお疲れ、と小田島さんは降りて行った。
本田さんの最寄り駅の、ひとつ手前だった。
どういうことだ?
違うってなんだよ。何が違うんだ?
ちゃんとって、どうやって聞くんだよ。
ていうか、小田島さんにバレてた?
しかも、なんだか凄くわかりやすいバレ方してなかったか?
普通にしてるつもりでバレてたなら、普通にはできないってことか?
そして、まずいことをしたことに気が付く。
あれじゃ、本田さんを好きだって認めたことになるじゃないか……。
小田島さんだからおそらくそんなことはないだろうけど、もしも噂にでもなって、本田さんの耳に入ったとしたら。
また、本田さんに迷惑をかけることになる。
それは、本当に、嫌だった。
いろんなことが頭の中にバラけて広がって。
なにから考えたらいいのかわからない。
頭の中が真っ白になったり、真っ暗になったりしながら、眠れない夜を過ごした。