ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 次の日。
 明日から夏休みに入る俺は、その前に終わらせなければいけない仕事に追われていた。
 寝不足だし、忙しいけど、その分なにも考えずに済むからちょうど良かった。
 昼休みもそこそこに進めて、3時には今日のノルマは終わってしまった。
 小田島さんにOKをもらい、突然やることがなくなる。
 ちょっと休憩しようと、飲み物を買いに席を立った。
 コーヒーを買って席に戻ると、本田さんがスマホを見てにこにこしている。
 隣から中村さんが覗き込んだ。
「千波先輩、それ新作ですか?」
「そうなの〜。今、母が送ってくれたのよ〜」
 ほら、と本田さんがスマホを差し出す。
「わあ、ケンさんカッコいい!」
 俺は固まった。
 どうやら『ケンさん』の写真を見ているらしい。
 お母さんが写真を送ってくれるって。親公認ってことか。
 もう本当にどうしようもないじゃないか。

 小田島さんの声が頭の中に聞こえてくる。

『それ多分違う』
『本田にちゃんと聞いてみ』

 だから、どうやって?
 いや、今がいいチャンスなんじゃないか?
 さりげなく会話に入っていけば、『ケンさん』について聞けるかもしれない。

「でしょう〜?もー早く会いたい」
「あと2週間、ですか?夏休みまで」
「うん、そう。今回も癒してもらうんだ〜」
「いいなあ。あ、でも、夏はくっつくと暑くないですか?」
「暑いよ。でもそういう時は、くっつくっていうか、絶妙な距離で寄り添ってくれるの」
「うわあ、ラブラブ〜」

 俺は、2人を凝視しながら会話を聞いていたらしい。
 視線に気付いた中村さんが『なによ』と言わんばかりに俺をにらむ。
 その視線を追うように、本田さんが振り返った。
「あ、ねえ須藤君も見て見て」
「え……」
 本田さんは、超絶ご機嫌な笑顔を向けてきた。
 そして、スマホを俺に向けようとする。
「え、いや、あの」
「チョーカッコいい写真なの」
 うろたえる俺に構わず、本田さんはにこにこしている。
「え、け、ケンさん、ですか」
「あれ、名前教えたことあった?」
「あ、いや」
「まあとにかく見てよ、カッコいいから!」

 本田さんの動作が、スローモーションに見える。
 スマホを持った手を出しながら、画面を俺に向けようとしている。

 見たくない。けど見たい。やっぱり見たくない。

 超絶ご機嫌の本田さんの笑顔は可愛い。

 この写真を見てしまったら。
 現実を突きつけられてしまったら。
 もう、この笑顔を可愛いなんて思ってはいけないんだ。

 俺は、覚悟を決めて、差し出されたスマホを前に、目を開けた。



 綺麗な青空をバックにして。

 背筋をピンと伸ばして。

 凛とした表情で。

 遠くを見つめている。



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