ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


「…………い、ぬ?」

 そこには、芝犬にちょっと毛を足した感じの、もふっとした犬が写っていた。

「カッコいいでしょ、ケンさん!」

 俺は、別の意味で固まった。

「雑種なんだけどね、ちょっともふもふで、さわるとふかふかで、すっごく気持ちいいの。今5歳だから、人間でいうと35歳くらいかな。最近大人っぽくなっちゃってさ、もーカッコいいんだよ〜」

 本田さんは夢中でしゃべっていたけど、俺が固まっているのに気付いたようだ。
「あれっ、須藤君大丈夫?ごめんね、もしかして犬は苦手だった?」
「あ、いや……」
 その時、ブホッと音がして、小田島さんが咳き込んだ。
 ゲホゲホと苦しそうに咳を繰り返している。
「あー小田島さんなにやってんですか。書類がコーヒー色ですよ」
 隣の西谷さんが、ティッシュで書類やキーボードを拭いてあげている。
 本田さんが立ち上がって、心配そうに向かい側を覗いた。
「小田島さん、大丈夫ですか?」
 小田島さんは、咳をしながらうんうんと何度も頷いている。
「ごめん、西谷ありがと。ちょっと席外す」
 声が震えている。
 立ち去り際に俺と目が合うと、口元を押さえた。
「すぐ戻るから」
 もごもごとそう言って、出て行った。
「具合でも悪いのかな」
 本田さんが呟く。
「今日は元気でしたから、絶対にそんなことないと思います」
 自分でも驚くほど、低い声が出た。
「そ、そう……?ならいいんだけど……」
 本田さんもその声の低さに驚いたのか、スマホを引っ込めて仕事に戻る。

 そう、具合なんて悪くない。
 あれは、笑ってるんだから。

 『ケンさん』が犬だということを知っていたんだから。

 ちくしょう。
 いつか必ず仕返ししてやる。

 俺は、そう心の中で誓った。



< 23 / 130 >

この作品をシェア

pagetop