ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
「…………い、ぬ?」
そこには、芝犬にちょっと毛を足した感じの、もふっとした犬が写っていた。
「カッコいいでしょ、ケンさん!」
俺は、別の意味で固まった。
「雑種なんだけどね、ちょっともふもふで、さわるとふかふかで、すっごく気持ちいいの。今5歳だから、人間でいうと35歳くらいかな。最近大人っぽくなっちゃってさ、もーカッコいいんだよ〜」
本田さんは夢中でしゃべっていたけど、俺が固まっているのに気付いたようだ。
「あれっ、須藤君大丈夫?ごめんね、もしかして犬は苦手だった?」
「あ、いや……」
その時、ブホッと音がして、小田島さんが咳き込んだ。
ゲホゲホと苦しそうに咳を繰り返している。
「あー小田島さんなにやってんですか。書類がコーヒー色ですよ」
隣の西谷さんが、ティッシュで書類やキーボードを拭いてあげている。
本田さんが立ち上がって、心配そうに向かい側を覗いた。
「小田島さん、大丈夫ですか?」
小田島さんは、咳をしながらうんうんと何度も頷いている。
「ごめん、西谷ありがと。ちょっと席外す」
声が震えている。
立ち去り際に俺と目が合うと、口元を押さえた。
「すぐ戻るから」
もごもごとそう言って、出て行った。
「具合でも悪いのかな」
本田さんが呟く。
「今日は元気でしたから、絶対にそんなことないと思います」
自分でも驚くほど、低い声が出た。
「そ、そう……?ならいいんだけど……」
本田さんもその声の低さに驚いたのか、スマホを引っ込めて仕事に戻る。
そう、具合なんて悪くない。
あれは、笑ってるんだから。
『ケンさん』が犬だということを知っていたんだから。
ちくしょう。
いつか必ず仕返ししてやる。
俺は、そう心の中で誓った。