ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 『ケンさん』は、犬だった。

 じゃあ、俺は、本田さんをあきらめなくていいのか?

 そう思うと、心が浮き立つ。

 あの笑顔を見ていてもいいんだ。
 あの声の心地良さに浸っててもいいんだ。
 思うことを止めなくてもいいんだ。

 浮かれていて、ハタと気付いた。

 本当に、本田さんには彼氏はいないのか?
 彼氏はいなくても、好きな人はいたりしないのか?

 もし、彼氏がいたり、好きな人がいるんなら。
 やっぱり、俺の気持ちは迷惑にしかならないんじゃないだろうか。

 見てるだけ、思ってるだけとはいえ、隣の席だ。
 避けたいと思っても避けられない。
 そんな状況で、恋愛対象にすら入ってないやつに思われても、困るだけだよな……。

 今、本田さんにとって俺は、ただの後輩だ。
 嫌われてはいないと思う。よく話しかけてもらえるし、笑顔も向けてもらえてる。
 後輩として、好意を持ってもらえてると思っていいと思う。
 このポジションは守りたい。
 下手に、俺の気持ちがバレて、気まずくなったり避けられたりするのは嫌だ。

 とりあえず現状維持だ。それしかない。
 小田島さんにはバレてるけど、あの人は噂を広めるような人じゃないし、見守るって言ってくれてる(なまあったかく、だけど)。きっと、本田さんにバラすようなことはしないはずだ。

 まずはこの距離を保って、様子見だ。

 我ながら情け無い気もするけど、とにかく嫌われたくない。

 帰省中、そんなことをずっと考えていた。

 墓参りの時、心の中でばあちゃんに報告した。

 ばあちゃん、俺、好きな人できたよ。
 その人は、ばあちゃんを素敵だって言ってくれたよ。その人も、素敵な人だよ。
 いつか、ここに連れて来れたら……そんな日が来ればいいんだけど。

 一緒に行った弟にぶつぶつ言われるほど、長く手を合わせて、報告した。



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