ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


「はー、楽しかった。ちょっと飲みすぎたな〜」
 本田さんは、ちょっとフラフラしている。
 それもあって、電車を一緒に降りて、当然のように家まで送っている。
 フラフラしてなくても、そうするつもりだったけど。
「須藤君がいっぱいしゃべってくれて、楽しかった」
「そうですか?」
「うん。あとねー自分のこと『俺』って言ってて」
「え……」
「あれっ気が付いてなかった?途中からずっと『俺』って言ってたよ」
 そういえばそうだったかも。今更ながら恥ずかしくなる。
「普段から『僕』って言ってるのかと思ってたけど違ったんだね〜。『俺』でいいからね、これからも」

 ご機嫌の笑顔。可愛くて、横を歩く肩を抱き寄せたくなる。
 ……俺も、少し酔ってるかもしれない。

「そういえば、今日の作業、めちゃめちゃ早かったね。それでいて正確で。やっぱり須藤君は優秀だね」
「そう、でしたか?でも、まだ覚えなきゃいけないことはたくさんありますよ」
「うん、でもさ、ちゃんとできてるし、もういろいろ任せてもいいんじゃないかなって。外周りも頑張ってるみたいだし」
 褒められると、嬉しい。
 この状況も加えて、どこまでも舞い上がってしまいそうだ。
「って、小田島さんも言ってたから」
 ……なんだ。小田島さんか。
 そういえば、小田島さんは「本田は無し」って言ってたけど、本田さんはどうなんだろう。
 俺は勢いで聞いてみようと思った。
「あの……」
 でも、なんて聞いたらいいかわからない。
 考えているうちに、本田さんが足を止める。
「送ってくれて、ありがとね」
 もう本田さんのマンションの前だ。
 こういう時だけ、もうちょっと遠くてもいいのに、と思ってしまう。
「今日はありがとうございました」
「うん、また明日。今度こそ、私がご馳走するからね」
 今日は、本田さんが出す、と言っていたのだけど、俺が割り勘で、と譲らなかった。
 先輩の顔をたてるとか、男の俺が出すべきか、とかいろいろ考え過ぎてよくわからなくなったので、せめて対等でありたい、と思って割り勘にしてもらったのだ。
「じゃあ今度、お願いします」
 いつ、とは決まってないけど、次の約束までできてるんだから、俺は満足だった。どうか社交辞令じゃありませんように。
「気をつけてね」
「お疲れ様でした」
 俺は、また曲がり角で振り返った。
 本田さんは、やっぱり見送ってくれていて、俺が見ると、手を振ってくれる。
 可愛くて、戻って抱きしめたくなる。
 必死で我慢して、笑顔を作って、頭だけを下げて、角を曲がった。
 後ろ髪は、長く長く長く引かれた。


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