ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
仕事を頑張っていると、どうしても残業が増える。
でもそれは、俺にとっては願ったり叶ったりで、本田さんと一緒の時間はかなり増えた。2人っきりは少ないけど、それでも嬉しい。
自分の仕事が終わってから、本田さんを手伝える時は手伝った。
本田さんは、俺が頭を抱えていると声をかけてくれる。
アドバイスは的確。それに、小田島さんと同じように、突き放す時もあれば、考え方だけ誘導してくれたりもする。俺の成長も考えてくれているんだとわかった。
俺は、先輩としてますます尊敬するようになった。
残業していると、本田さんは時々チョコレートをくれる。
俺も、お礼にチョコレートをあげる。本田さんは、チョコが大好きらしいのだ。
「本田さん、これ、良かったらどうぞ」
コンビニで見つけた新製品を差し出す。
本田さんは、パアッと笑顔になった。
「いいの?ありがとう!」
満面の笑み、と札をつけたくなる。
一つ取って、口に入れる。
「おいしい〜」
その子どものような表情が、可愛くて愛おしい。
「さすが、チョコ好きの選ぶ物には間違いはないね」
「あ、あはは……」
本田さんの喜ぶ顔が見たくてチョコを買ってくるうちに、すっかり俺はチョコ好きなんだと誤解されている。
力なく笑いながら、同じく残業している小田島さんと西谷さんにもチョコを配った。
西谷さんは普通に受け取ったけど、小田島さんはニンマリと笑って言った。
「須藤はほんとに好きなんだなあ」
「なっ小田島さ……」
「チョコが」
いただきまーす、とあげたチョコを口に放り込む。
時々こうやってからかわれる。
恥ずかしくなるけど、それ以上のことはしないので、流すようにしている。
小田島さんとしては、これが“なまあったかく”見守るということらしい。
ちょっと前に「仕事をする原動力になってるみたいだし、ウチ社内恋愛禁止じゃないし、特に問題なし」と、言われた。
確かに、俺が今頑張っている一番の理由は、本田さんに認めてほしいから、だ。
浮ついていると言われようと、事実だからしょうがない。成果を上げればそれでいいはずだ。
俺は、チョコを一つ口に入れて、パソコンに向かい直した。
残業の時は、なるべく本田さんと帰る時間を合わせるようにしている。上手く合わせられない日も多いけど、なるべく自然に合うようにしていた。
そして、一緒に帰れる日は、家まで送る。
本田さんは最初は断っていたけど、俺が当然のように振る舞っていたら、なにも言わずに送られてくれるようになった。
須藤君は紳士だね、と盛大に勘違いしている。
今日は、本田さんの帰り支度が整った頃に、俺の作業が終わった。
「あれ?須藤君、終わり?」
「はい、今終わりました」
「じゃあ一緒に帰ろっか」
本田さんは、笑顔で言ってくれる。
「はい」
俺も笑って答える。こういう時は、締まりのない顔だと中村さんから言われたことがある。
だって仕方ない。嬉しいんだから。
本田さんを待たせているので、素早く帰り支度をする。
「いーいーなー……おれもかーえーりーたーいー」
まだ仕事が終わらない西谷さんが、か細い声を出した。ジト目でこっちを見ている。
「手伝いましょうか?」
俺が言うと、本田さんがすかさず止める。
「須藤君、それね、西谷君しかできないやつ」
西谷さんはガクッと肩を落とした。
「いーんだー、おれはこーやって枯れていくんだー」
「西谷君、その仕事は西谷君しかできないのよ。大丈夫、あなたならできるわ!」
わざとらしく本田さんが励ます。
「ほらっ、ケンさんも頑張ってって言ってるわ!」
本田さんが出したスマホには、ケンさんのあくびしている写真が写っていた。
「……本田さん、もーいいっす。おれがんばります……」
西谷さんが哀しそうに言う。
俺が吹き出すと、本田さんも笑い出した。
「に、西谷さん、これあげますから……」
笑いながら、さっき配ったチョコの残りを箱ごと渡す。
西谷さんはぶーっとふくれながら受け取った。
「ありがとーすどーくん」
棒読みだ。
俺は笑いが止まらずに、謝りながらフロアを出た。本田さんも笑いながら後に続く。
「西谷君がんばってね〜おつかれ〜」
エレベーターに乗っても、2人で笑い続けた。
同じことで笑える。そのことが、凄く嬉しかった。