ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
「須藤君、終わった?」
集中していた。いつのまにか、周りの電気は消えていて、俺と本田さんしか残っていない。
「あ、あれ……?」
「みんなもう帰ったよ。私もさっき終わったの」
時計を見ると、もう9時を過ぎていた。
「終わったなら帰ろう」
本田さんは、もうすっかり支度ができている。
もしかして、待っててくれた?いやいや、さっき終わったって言ってたよな。
「すいません、すぐ準備します」
慌ててパソコンをシャットダウンして、荷物を片付ける。
「慌てなくていいよ。急がないし」
席に座って、朗らかに言う。
「お待たせしました」
コートを着て鞄を持つ。
本田さんは、今日中村さんから誕生日プレゼントにもらったマフラーを巻いている。
落ち着いたグリーンで、肌触りが良さそうだ。
本田さんのグレーのコートにも似合っている。
「給湯室寄ってくね」
冷蔵庫から紙袋を出す。
扉を閉じたところで、本田さんの手から紙袋を取った。
「持ちます」
「え、いいよ。私がもらったんだし」
「大丈夫です」
「でも私が持ちたいから……あっじゃあこっち持って」
本田さんの鞄が目の前に出された。
それは……なんというか。
プッと吹き出してしまう。
「もう、なんで笑うの」
本田さんはふくれっ面だ。
俺は笑いながら答えた。
「わかりました。こっち持ちます」
本田さんの鞄と紙袋を交換する。
本田さんは、紙袋を持って嬉しそうに笑った。
「今日、おめでとうってたくさん言ってもらっちゃった」
「良かったですね」
「もう祝ってもらう年じゃないって思ってたけど、やっぱり嬉しいね」
「年は関係ありませんよ」
「あはは、そうかも」
会社を出る。
駅までの道。電車の中。駅からの道。
幸せそうな本田さんの横で、俺もずっと幸せだった。
本田さんのマンションの、いつものところで足を止める。
鞄を渡すと、本田さんはにこっと笑って紙袋を上げる。
「これ、本当にありがとう」
何故か、ちょっとはにかんで目を伏せた。
「実は、もう一回、ちゃんとお礼を言いたくて、さっき、終わるの待ってたの。急かしちゃってごめんね」
「え……」
待ってたって、俺を?
「ケーキ、自分では買うつもりなかったから、すっごく嬉しい」
満面の笑み。
可愛くて、抱きしめたい。
手が動きそうになるのを、必死で我慢した。
「喜んでもらえて、俺も嬉しいです」
俺も笑顔を返す。
2人で笑い合う。
……幸せだ。
このままで、ずっといられたら、どんなにいいか。