ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
予想通り、クリスマスはイブも当日も残業。
家庭のある人には優先的に帰ってもらって、残れる人でとにかく作業を進める。
とは言え、約束がある人もいて、ポツポツと帰って行った。
8時も過ぎると、本当に人が少なくなる。
隣のチームも全員帰って、残りは小田島さんと千波さん、中村さん、俺の4人になった。
小田島さんのスマホがブルブル震えた。見ると、あっという顔をする。
「俺、今日実家だった」
帰り支度を始める。
「今年もパーティーですか?」
千波さんがにこにこして言う。
「そう、俺は今年もサンタだよ。じゃお先」
渋い顔をした小田島さんが、大きな紙袋を2つ抱えて帰って行った。
「今年もサンタって、なんですか?」
中村さんが聞いた。
「毎年お姉さん一家が来て、実家でクリスマスパーティーするんだって。まだ幼稚園の姪っ子と甥っ子がいてね、小田島さんはサンタになるのよ」
「小田島さんがサンタ……そんなことするんですね」
「あの紙袋、一つがプレゼントで、もう一つがサンタの衣装なんだよ。帰る途中で着替えて、ヒゲつけて登場するんだって」
「それはちょっと見たいかも」
「ねー、私もそう思う」
2人でうふふと笑っている。
明るい話題で、ちょっとほっこり和む。
しかし、仕事は山積み。全然終わる気がしない。
しばらく作業して、はあ、とため息をついた。
後ろから、とんとん、と肩を叩かれる。
振り向くと。
サンタの帽子をかぶった笑顔の天使がいた。
「残業を頑張る子たちに、ケーキのプレゼントでーす」
天使が、いちごのショートケーキを持っている。
「コンビニケーキで申し訳ないんだけど、気分だけね」
はい、と、デスクにケーキを置く。
同じものを中村さんと自分のデスクにも置いた。
「これもサンタからのプレゼント」
缶コーヒーをケーキの横に置いていく。
「千波先輩可愛い〜ありがとうございます〜」
「ありがと〜でもサンタさんて呼んで〜」
2人は笑いながらつつき合っている。
俺はぼうっと見ているだけだった。
不意打ちだったのもあるけど、千波さんがあまりにも可愛くて、なにも反応できなかった。
「あれっ……須藤君、もしかして引いてる?駄目だった?コンビニに売ってたから、私もサンタになれるかと思ったんだけど」
帽子だけじゃダメか、ヒゲも必要だったかな、とぶつぶつ言っている。
いや、サンタです。充分サンタです。
あー可愛くて抱きしめたい‼︎
中村さんがいなかったら、本当に抱きしめていたかもしれない。
「いいんですよ、千波先輩が可愛過ぎて見惚れてるんですから。放っときましょう」
中村さん、本当のことをそんなにはっきり本人に言わないでくれ。
「お腹空いてるし、いただいていいですか?」
「もちろんどうぞ〜。須藤君も食べよ〜」
やっと、我に返って動くことができた。
「ありがとうございます……いただきます……」
頭を下げると、千波さんはうんうんと頷く。
ケーキはおいしかった。
おかげでテンションが上がって、3人で11時まで仕事をした。
千波さんは帽子をかぶったままだった。気に入ったらしい。
可愛くて、俺も中村さんも癒されながら仕事ができた。