ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


「あ、隆春だ。久しぶり〜」
 居酒屋の奥まった座敷に、浩紀の彼女、世田さやかがいた。
 さやかも、保育園から中学まで同じ、浩紀とは高校も同じの幼なじみだ。
 2人が付き合うことになった時に、俺は真っ先に報告を受けたけど、全然驚かなかった。ずっと一緒にいて、お互いに好きなのは知っていた。そのままズルズルするのかと思ったら、ちゃんと付き合うと言い出したので、そっちに驚いたくらいだ。高校を卒業した時だった。
「隆春の恋バナ聞いたぞ」
「え、なにそれ。ずるい浩紀だけ。私にも聞かせなさいよ」
「写真あるんだろ、見せろ」
「え、ちょっと待てって」
 浩紀は遠慮なくスマホを取り上げようとする。
「ほーら待ち受けが……なにこれ、普通のじゃん」
「そんなあからさまにする訳ないだろ。まだ彼女でもなんでもないんだから」
 スマホを返してもらい、仕方なく千波さんとケンさんの写真を見せる。
「あ、可愛い」
 さやかが呟いた。
「あれ、お前さっき年上って言ってなかった?」
「年上だよ。5こ」
「全然見えない」
「えー可愛いじゃん。会社の人?」
「そうだって。隣の席だってよ」
「ひゃーあの隆春が?ちょっと詳しく聞かせなさいよ」
 あの、ってなんだ。
 そして、俺ではなく浩紀がさやかに千波さんの話をしている。

 3人で集まると、いつもこうだ。保育園の時から浩紀とさやかはおしゃべりで、俺は黙って聞いている。2人がしゃべってくれるから、俺はしゃべる必要がないのだ。
 俺が無口って言われるようになったのは、この2人のせいかもしれない。

「5こ上ってことは28?もう結婚じゃん。ダブルで式挙げる?」
 さやかが言い出した。
「え、ダブルって……結婚すんの?」
 浩紀が照れくさそうに笑う。
「するする。式に出て。今年の10月」
「浩紀、話してなかったの?」
「いや、それより隆春の恋バナの方が重要だと思って」
「それはそうね。あ、招待状は後で送るね」
 2人のマシンガントークを聞きながら、俺は嬉しくなって、笑って言った。
「おめでとう」
 2人はピタッと止まって、まじまじと俺を見る。
「隆春……そんな可愛い笑顔、どこで覚えてきた?」
「それ、ひょっとして彼女の影響?」
「なに言ってんの2人共」
「あんたはそんな風にニコッと笑う子じゃなかったわ」
「すげーなあ、恋の力って。無表情なヤツに笑顔ってスキルを与えちゃうのか」
「隆春をこんな風に変えちゃうなんて。凄い人だね、千波さんて」
「会ってみたいよなあ」
 うんうん、とさやかが頷く。
「……機会が、あったら……ていうか、ほんとにまだなんにもないし、あっちは俺なんて対象外だから」
「今から頑張るんだろ?」
「……そうだけど」
「可愛いし、いい人そうだし、ぐずぐずしてると他の人に取られちゃうんだからね。年上の頼れる大人の男にさ」
 ぐっ、と言葉に詰まる。そこは一番突かれたくないところだった。
「ちゃんと結婚まで考えてるって言わないと、鼻で笑われて終わりだよ。ちゃんと言いなさいよ」
「いや、まだそこまでも……」
「わ か っ た?」
 さやかの容赦ない言い方は中村さんに似てるし、中村さんはここまで凄まないから怖い。
「……わかった」
 よし、とさやかはトイレに行った。
 浩紀が苦笑いしている。
 俺は、浩紀に聞いてみた。
「結婚て、どうやって決めたの?」
「あー、特に」
 特に?ないってことか?
「お互いさ、実家にいるだろ?どっちかの家とか、外で会うことになるじゃん。そうするとさ、長く一緒にいられないんだよね」
 浩紀は照れくさそうに頭をかく。
「じゃあ実家出るかって話になって、2人で住むんなら、同棲じゃなくていっそ結婚するかって。親同士も知ってるし、俺もさやかも働いてるし、特に問題なかったよ」
「早いとか、言われなかった?」
「言われなかったなあ。俺達付き合い長いし、遅かれ早かれだから」
 浩紀は、俺の顔を見てニヤッと笑う。
「お前も考えてるんだろ?結婚」
 考えてる、というか、考え始めたばっかりだ。
「相手は年上だし、ごちゃごちゃ考えると止まんないよ。お前昔っからそうだから」
 浩紀にはいつもそう言われる。
「単純でいいんだよ。一緒にいたいって思ったら、一番簡単な方法だよ。周りにも認められて、堂々と一緒にいられる」
 浩紀が、凄く大きく見えた。



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