ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
13. 4月・2回目
隆春
「プリンターにあった書類、これ本田さんですか?」
「え、あ!忘れてた。ごめん、ありがとう」
書類を渡す。
千波さんは書類を受け取りながら、俺の顔をじっと見る。
「……あの?」
千波さんは、まばたきを一つして、ハッとした。
「あっ、ごめんね、これありがとう」
サッと目をそらしてしまう。
最近、こんなことが続いている。
遠くからも、視線を感じる。
見ると、千波さんがこっちを見ていて、俺と目が合いそうになるとサッとそらす。バッチリ目が合ってしまった時は、ごまかすように笑って逃げてしまう。
仕事の話は普通にできる。
それ以外は、なんかぎこちない。
俺の大好きな笑顔も、ちょっとひきつってる気がする。
……何か、してしまっただろうか。
千波さんが、こんな行動を取るようになったのは、ホワイトデーの後からだ。
俺が、あの時、知らないうちになにかやらかしてしまったのだろうか。
そう思って、偶然会った筒井課長に聞いてみたら、何故か吹き出されてしまい「何もしてないよ」と笑いを堪えながら言われた。
その反応、凄く気になるんだけど、と思っていたら「しばらく様子を見てみたらいいんじゃないかな」と言われた。
言われた通り様子は見ているものの、千波さんのおかしな視線は変わらない。
ただ、嫌われたり、避けられたりしている訳ではなさそうだ、ということはわかった。
朝早めに出社して時々顔を合わせるのはいつも通り、というか、回数は増えた気がする。
千波さんの気分によって飾られていた花は、最近途切れない。だから、顔を合わせる回数は増えたんだろうけど。
その時も、じっと見られているようだ。
何か、観察されている気分。
相手が千波さんなので不快ではないけど、何をどう見られているかわからないので、不安になってくる。
おかげで、デートにも誘えないままだ。
でもこれは、自分の勇気が足りないせいでもある。
我ながらヘタレだとはわかっているけど。
どうしても、毎日見られる千波さんの笑顔を失いたくなかった。