ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
千波
『須藤君の近くにいてごらん』
『須藤君の側にいたら、わかると思うよ』
どうしたらいいんだろう。
何度考えてもわからない。
須藤君を見ると、つい考えてしまう。
おかげで、須藤君をじっと見つめることになり、最近の私は、挙動不審だと思われているに違いない。
挙動不審くらいならいいけど、気持ち悪いと思われてないだろうか。
須藤君は、時々はてなマークを貼り付けた顔で、私を見る。そりゃあ何事かと思うでしょう。
やめようやめようと思うのに、ついじっと見てしまう。
席は隣。仲は良い方だと思う。
須藤君は、配属直後から仕事を頑張っていて、もう対等にできるんじゃないかと思う。5年目の自分がそれでいいのかと思うくらいだ。
仕事の相談もできるようになって、密かに頼りにしていたりする。須藤君もいろいろ聞いてくれるから、私も少しは頼りにしてもらえてるのかな、と思う。
よくチョコレートを差し入れしてくれる。私もチョコレートが好きだから、最近は分け合ったりしている。
持っているのど飴も同じらしい。私がうっかり切らしてしまった時には、スッと出してくれる。
残業している時に、ちょっと疲れたなと思ったら、カフェオレをくれる。ついでです、って言って、彼はコーヒーを飲んでいるから、休憩したいタイミングが合うんだと思う。
帰省した時や、誕生日、クリスマス、バレンタインデーとホワイトデー。
お土産や、プレゼントを贈り合うようになった。
最初は、気を遣わせてしまっていると思っていたけれど、私も嬉しいし、須藤君も嬉しそうにしてくれるので、贈ること自体が楽しくなっている。
須藤君は、照れくさそうだけど、素直に喜んでくれて、その時の表情は、クールや無表情とは無縁の、可愛い笑顔だ。
いつからか、帰りが遅くなった時には、家まで送ってくれるようになった。
同じ沿線で、須藤君の方が2駅先。わざわざ電車を降りてくれる。
私の家は駅から近いし、申し訳なくて断っていたけれど、それでも「心配だから」と言って送ってくれる。
おかげで、何も考えず、安心して歩くことができている。
恭子には、最初「送り狼じゃないの?」と言われたけど、そんなことはない。
須藤君は紳士で、マンションの入り口まで来ると、サラッと帰って行く。
歩くスピードも私に合わせてくれるし、いつも車道側を歩いてくれる。
傘に入れてもらった時は、私が濡れないように傘を傾けてくれて、自分は濡れてしまっていた。
そんな時だって、サラッと帰ってしまう。「上がって行く?」なんて言う隙もない。
せめて、と思って、角を曲がって姿が見えなくなるまで見送っている。
彼は、角を曲がる前に、必ずこっちを振り返って、ペコッと頭だけを軽く下げる。それが可愛くて、私は嬉しくなって手を振る。
それがいつもの流れで、それ以上のことは一切ない。送り狼だなんて、とんでもない。そんな風に警戒するのは、須藤君に失礼だと思う。そのくらい、彼は誠実に私を送ってくれている。
もう十分近くにいると思う。
これ以上、どうやって、近付けばいいのか。
どういう状態が『近くにいる、側にいる』ことになるっていうんだろう。