ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 次の日の朝。
 花を持って出社した。今日は、カーネーションを中心にしたミニブーケ。花屋さんのおすすめ。
 給湯室で花を活けていると、須藤君がいつもの通りウォーターサーバーの受け皿を持ってやってきた。
「おはようございます」
 笑顔の彼を見ると、昨日のことを思い出してしまって、顔がほてった。
「お、おはよう……」
 思わずうつむくと、須藤君がすぐ近くで顔を覗き込む。
「寝不足ですか?」
「えっ……」
「目が赤いです」
 ニコッと笑って、受け皿を洗い出す。

 なんか、私ばっかり動揺してるみたい。

 余裕そうな彼を横に感じながら、花を整える。
「そういえば……」
 須藤君が声を潜めて、私の耳元でささやく。
「昨日の返事、ちゃんと聞いてません」
「えっ⁈」
「今日の帰り、聞かせてください」
 彼はそう言って、素知らぬ顔で受け皿を拭いている。

 やっぱり、動揺してるのは、私だけみたい。

 須藤君とはたくさん話してたつもりだけど、そういえば恋愛の話はあまりしたことがない。
 彼氏がいるか、好きな人がいるか、を聞かれたことがあるくらい。それは、今思えば、彼が私のことを好きになったから気にして聞いていた、ということで。
 須藤君の話はほとんど聞いたことがない。
 でも、彼はモテるから、きっと私よりも経験は多いはず。
 だって、須藤君はとても紳士で、女性の扱いには慣れているみたいだし。
 今だって、私だけが顔を赤くしたり、動揺したり、ドキドキしたり。
 ちょっとだけ、悔しい気分だった。

 昨日の返事って、結婚のこと?
 それは『付き合ってから』ってことになったんじゃなかったのかな。

 よくわからないまま、朝の時間を終えたけど。

『今日の帰り、聞かせてください』

 昨日のことは夢じゃないんだ、って実感できた。

 さて、仕事をきちんとしなくては。
 これでミスしたら『色ボケしてる』って言われてしまう。
 ここはけじめをつけよう。

 気合いを入れて、デスクに向かった。



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