ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
本田さんは、ウォーターサーバーの横にある置き菓子の棚の上にカーネーションを飾った。
本田さんの気が向いた時に飾られる花は、殺風景なオフィスを少し和ませる。
でも、今日は複雑な気分だった。
正直言うと、連休中はずっとこの気分を引きずっていた。
自分でも持て余していた。
本田さんがプライベートでどうだろうと、自分には関係ない、と何度も思い直した。
それでも、モヤモヤは晴れない。
なんなんだ、これ。
本田さんは、席に着くと紙袋から小さな包みを取り出した。
「はい、お土産」
俺に差し出す。
手を出すと、手の平にちょんと包みを乗せた。
「ちょっとでごめんね。お菓子だから、好きな時にどうぞ」
引き続きご機嫌な笑顔を向けてくる。
「……ありがとうございます」
笑顔にあてられて、声が小さくなる。
「須藤君、元気なくない?具合悪いの?」
本田さんが、顔を覗き込んでくる。
近くなって、ちょっと焦った。
「いえ、大丈夫です。休み明けでダルいだけです」
「そう?じゃあこれ食べて、やる気出してね」
近くで見た本田さんは、いつもよりも輝いて見えた。
「は、はい……」
俺の返事に満足そうに笑って、来始めた他の人達にお土産を配りに行った。
やっぱりモヤモヤは晴れない。
そのまま、午前中を過ごした。
昼休みになると、筒井さんが本田さんをランチに誘いに来た。
「ちなみ〜お昼行こ〜」
「うん、ちょっと待って、今準備する」
「美里ちゃんも行く?」
「えっいいんですか?」
「もちろんだよ。千波のラブラブ話、一緒に聞こうよ〜」
「ラブラブ⁈なんですかそれ!」
「まあまあ、話は食べながら聞こうじゃない」
「千波先輩、ラブラブってなんですか⁈」
「あはは、とりあえず行こ行こ」
嵐のように去って行った。
正面の席の小田島さんを見ると、書類を見ながら難しい顔をして何かを考えている。
本田さんのラブラブ話は聞こえていなかったんだろうか。
それとも、ラブラブ話なんて聞こえても気にならない、ただの先輩後輩なんだろうか。
そんなことを考えながら、じっと見てしまっていたらしい。
「なに?」
視線に気付いた小田島さんがきょとんとしている。
「あ、あの、昼休みですよ」
「え、ああそっか。飯行くか」
「あっ、はい」
そんなつもりはなかったけど、小田島さんと一緒に定食屋さんに行くことになった。