ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜
始業直前。
須藤君が、コーヒーを小田島さんのデスクに置いた。
「一応、お礼です」
小田島さんが驚いた表情で須藤君を見る。
須藤君は仏頂面で、久保田君にもコーヒーを渡した。
久保田君は、ニコッと笑う。
「じゃあ餌付けは無しですね」
須藤君は、久保田君をジロッとひと睨みして、席に戻ってきた。
久保田君が、私を見てニコッと笑う。
小田島さんは、須藤君と私を見比べて、ニヤッと笑った。
なんなの、これ。
後から、この人達との話を聞いて、呆れたというかなんというか。
でも、知らなくて良かったとも思った。
知ってたら、恥ずかしくてこの場にいられなかったから。
ランチの時に、恭子と美里ちゃんに報告した。
恭子は満足そうに頷き、美里ちゃんは……。
「私の千波先輩が……」
ショックを受けているようだった。
「ええっと……ごめんね、って言うのも変か」
「須藤のヤツ……千波先輩を幸せにしないと、私が許しませんから。なにかあったらいつでもぶっ飛ばしますから、言ってくださいね!」
「うん……ありがと」
その勢いにはかないません……。
その日の帰り。2人共、定時であがった。
いつもと同じように帰るつもりだったけど、今日はみんなの視線がなまあったかい。
須藤君は、今日はずっと仏頂面で、帰る時もそれを崩さなかった。
「あの、お先に失礼します」
私が言うと、須藤君はちょっとだけ頭を下げる。
「おーお疲れ〜」
小田島さんは、ニヤニヤと手を振った。
美里ちゃんは、私に笑顔で挨拶した後、じとっと須藤君をにらみ付けている。
西谷君は、みんなの反応を見てキョロキョロしている。
久保田君は、にこにこ笑いながら須藤君の側にやってきた。
「須藤さん、これ、用意したんですけど無駄になっちゃったんで、良かったらどうぞ」
出しているのは、チョコレートの箱。ハイカカオの、須藤君が好きな銘柄だ。
須藤君は、苦虫をかみつぶしたような顔で受け取った。
「一応、礼は言っとく」
久保田君はにっこり笑う。
「お疲れ様でした。本田さんも、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした……」
なんか、久保田君の後ろに黒い陰が見えたのは気のせいか……。
久保田君に挨拶をしていたら、須藤君はもうフロアを出て行ってしまった。
慌てて追いかける。
須藤君は、エレベーターの前で待っていてくれた。
「すいません。いろいろあって、どうにもこうにも恥ずかしくて……」
「うん、よくわかんないから後で説明してね。そのチョコはなんなの?」
「それも、後で説明します」
ひとまず会社を出て、駅に向かって歩き出そうとしたら、須藤君の足が止まった。
「この辺では、さすがに恥ずかしいので、会社から離れてからでもいいですか……?」
一瞬、なんのことかわからなかった。
考えていたら、須藤君が私の顔を読んだらしい。
「あの、手の、ことです……」
テ?て、とは……ちょっと考えて、やっとわかった。
「ああ、あの、はい、それでお願いします」
須藤君の顔は真っ赤になっている。
私の顔も赤いはずだ。
なんだ、須藤君も、余裕たっぷりじゃないんだ。
同じかな、と思ったら、少し気が楽になった。