ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 その週の土曜日。
 2人共休日出勤になり、定時に仕事が終わって、一緒に会社を出た。
 駅に向かう道で、様子を伺ってみる。
「あの須藤君、今日、この後の予定は……?」
「特にありませんよ。ご飯食べて行きますか?」
 須藤君の安定の笑顔。癒される。
「うん、あの……明日の予定は?」
「明日は、洗濯して、掃除して、ゴロゴロしてます。いつもと変わりないですよ」
「そっか」
 なんて言おう。
 ワインは昨日届いていて、ついでに実家にあったお歳暮の残りのハムとソーセージのセットも送ってもらっていた。
 帰るついでに、サラダやチーズなんかを買っていけば、準備は万端だ。
 でも、須藤君も1人でゆっくり休みたいかもしれない、なんて考えてしまって、朝からなかなか言い出せなかったのだ。
「あの……須藤君、疲れてる?よ、ね?」
「え?」
 須藤君がきょとんとしている。
 私は慌てて笑ってごまかした。
「ごめん、休日出勤なのに、当然のこと聞いちゃった」
 そのまま2、3歩歩いたけど、須藤君は足を止めていた。
 振り向くと、須藤君がじっと私を見ている。
 真剣な表情。
「あの、無理しないでください」
「え?」
「本田さんに無理させるんなら、このまま帰っても俺は構わないし、送る時も、何もしませんから」
 今度は私がきょとんとする番だ。
 私、そんなに疲れてるように見えるのかな。
「でも、手はつなぎたいからそのくらいは許してほしいんですけど……」
 最後の方は聞き取れないくらいごにょごにょしゃべっている。そのごにょごにょは、かなり可愛い。
 それを見ていたら、あっ、と思い至った。
「違うの。私が疲れてるとかじゃないの」
「え、違うんですか?」
「違う違う。疲れてるから帰りたくてあんな風に言ったんじゃないよ」
 須藤君が、ホッとした表情をした。
「なんだ、俺てっきり……」
「ごめんね、変な言い方して」

 須藤君は、いつでも私を一番に考えてくれる。
 私も、彼を一番に考えたい。
 もっと一緒にいたい。
 勇気を出した。

「あの、昨日ね、実家から荷物が届いて、前に須藤君にあげたワインの白と、お歳暮の余りのハムとソーセージのセットが入っててね、1人で開けても余っちゃうかなって思って」
 段々恥ずかしくなってきて、自然と目を伏せてしまう。
「でも、最近残業続きだし、須藤君も疲れてるかなって思って、すぐに腐る物じゃないし、また今度にでも」
「疲れてません」
「え?」
 顔を上げると、須藤君の眩しい笑顔があった。
「俺は疲れてませんよ。ていうか、今ので疲れはふっ飛んでいきました」
「え……あ、そう……?」
「はい」
 須藤君が歩いて、私に追いついた。
「で?」
「え?」
「1人で開けても余っちゃうかなって思って、その後は?」
「あ……」
 やっぱり恥ずかしくて、うつむいてしまう。
 でも、言わなきゃ。
「その、良かったら、私の家で、一緒にどうかなって、思ったんだけど……」
 私もごにょごにょしてしまう。
 目に入るのは、須藤君の足。
 やっぱり大きいな、と思っていたら、ぼそっと呟きが聞こえた。
「やべ……」
 顔を上げたら、須藤君が口元を手で押さえて、顔を赤くしてそっぽを向いていた。
「予想以上に嬉しくて。叫び出しそうなんで、ちょっと待ってください。落ち着きますから」
 叫び出しそうって、須藤君が?想像できない。
 須藤君は、そっぽを向いたまま、口元や目元を押さえたりして、ぶつぶつなにか言っている。
 そのうち、よし、と私の方を向いた。
「お待たせしました。すいません」
「もう、大丈夫?」
「はい。あの、本田さんの家に、お邪魔していいんですか?」
「うん、白ワイン冷やしてるし。ビールもあるよ」
「じゃあ……何か作りますか?」
「えっ」
 須藤君はにこにこしている。
「スパゲッティなら、すぐできますよ。白ワインならクリーム系かな、それともオイル系かな」
「そんな、作ってもらうなんて。須藤君だって疲れてるのに」
「大丈夫ですよ」
 促されて歩き出す。ここでごちゃごちゃ言っててもしょうがない。
「どっちが好きですか?」
「え?」
「スパゲッティです。カルボナーラ?それともペペロンチーノ?ペスカトーレもありかな」
「あ、えーと、カルボナーラ、かな」
「じゃあそっちにします」
 凄く機嫌が良さそうだ。
「ほんとに、いいの?」
 須藤君は、ニッと笑った。
「胃袋を掴め、ってよく言うでしょ?」
 今度はなんだかカッコいい。
 もう、やられっぱなしだ。
「それ、男の人のことじゃない」
「女性にも有効だって何かに書いてありましたよ」
「まあ、確かに。餌付けされちゃってるしね」
 ちょっとスネ気味に言ってみたら、須藤君は焦り出した。
「あれはあの、そういうんじゃなくて……」
「なんなの?」
 須藤君は、顔をカアッと赤くした。
「チョコあげると、嬉しそうにしてくれるから……食べてるのも可愛いし……」
 私も、顔が赤くなる。
 ずるい。そんな風に言われたら、降参するしかない。
 2人共無言で、顔を赤くしたまま、駅に入った。



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