ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 俺は、千波さんの隣に行って、抱きしめた。
 千波さんはおとなしくされるがままになっている。
 いつものいい匂いがする。そして、あったかい。やわらかい。
「もっかい」
「え?」
「もっかい呼んで」
「え、あ……」
 俺の腕の中で、顔を見上げる。
「はるちゃん」
 俺の大好きな、ソフトな声。
 可愛すぎて、死にそうだ。
 もう我慢できない。
「千波さん……」
 顔を近づけると、千波さんは目を閉じた。
 ほっぺたに軽くちゅっとして、すぐに唇を合わせる。
 自分でも、制御できない。
 強く、深く求める。
「千波さん」
 キスの合間に名前を呼ぶと、その度に千波さんの力が抜けていく。

 唇を離して、千波さんの顔を見る。
 とろんとして、可愛くて色っぽい。
 唇へのキスを繰り返して、首筋にもしてみる。
 千波さんが、息を飲んだ。
「あっ、あの、須藤君」
「違うよ」
 首筋はまだ早かったかな。
「ちゃんと呼んで、千波さん」
 唇に戻る。
 ちゅっとしてすぐ離すと、真っ赤な顔の千波さんが、焦っている。
「……はるちゃん、あの」
「なに?」
 ほっぺたやおでこ、まぶたにも軽いキスをくり返す。
「わ、私、あの」
 なんだか言いにくいことを言いたいようだ。
 キスはやめて、頭をなでることにした。
「どうしたの?」
 顔は赤いけど、深刻な表情。
「あのね、私、あんまり、その……経験がなくて」
 ああ、その話か。
 頭はなで続けるけど、黙って話を聞く。
「あんまりっていうか、一回しかなくて、しかも大分前の話だし、だから多分、上手くできないだろうし、あの……」
 話が途切れた。
 しゃべっていいのかな、と思って、顔を覗き込む。
「千波さん?」
 目が合う。凄く不安そうだ。
「大丈夫だよ」
「え……?」
「経験少ないとか、上手くできないとか、関係ない。なんなら初めてでも、問題ないよ」
 安心してほしくて、笑ってみる。
「俺は、千波さんがいい」
 そっと抱き寄せた。
 頭はずっとなでている。
「千波さんが、いいって言うまでしないから。だから安心して」
 千波さんは、黙っている。
 目を伏せて、何か考えていたけど、やがて口を開いた。
「……いい」
「え?」
「いい」
「いいって……」
 『いいって言うまでしないから』の『いい』なのか?
「いい、って、千波さん、ちゃんとわかって言ってる?」
 千波さんは頷く。
「はるちゃんが、いいって言ってくれるんなら、私はいいよ」
「千波さん、無理しなくていいんだよ。俺は待てるから」
「無理じゃないよ。ほんとはまだちょっと怖いけど」
 千波さんは、俺の胸にこてんと頭をつける。
「はるちゃんなら、大丈夫って思った」
 全身が、しびれた。
 この人、ほんとどこまで可愛いんだ。
「千波さん」
 ぎゅっと抱きしめる。
「もう我慢しないよ?」
 千波さんは、頷いて、俺の背中に手を回した。
「はるちゃん、好き」
 理性は、無音でふっ飛んでいった。




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