ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜

「須藤は、連休中はどうしてた?」
 小田島さんが、聞きながら日替わり定食の味噌汁をすする。
「家にいました」
「へえ、ずっと?」
「はい」
「家でなにしてた?」
「ゴロゴロしながら、本読んだり、あとは勉強してました」
「勉強か、偉いな」
「……まだまだなので」
「仕事?そりゃあ、まだ始めたばっかりだもんな。まあでも、その姿勢はいいと思うよ。本田もそうだったし」
「本田さんですか?」
「そう。前に話したことあるだろ?若くて女だからナメられるって。それをどうにかするには、やるしかないって、とにかく勉強して、経験積んで、って頑張ってたなあ。今もそうだし」
「そうなんですね……」
「頑張り過ぎたせいで、彼氏と別れたりしてるけどな」
「え」
「去年、学生の時以来やっとできた彼氏に、『俺と仕事とどっちが大事なんだ』って言われたんだって。ショック受けてたよ。そんなこと言われると思わなかったって」

 そんな比べてもどうしようもないことを言い出すようなヤツとは、なんにしろ上手くやっていけないだろ、と思った。

「別れた原因はそれだけじゃないらしいけど……須藤も気を付けろよ」
 小田島さんは、ニッと笑った。
「なにをですか?」
「『仕事とアタシとどっちが大事なの⁈』って彼女に言われないように」

 苦い記憶がよみがえる。

「……もう言われました」
「え?」
「学生の時に。勉強とバイトで忙しくしてたらそう言われました」
「おー……で、その後は?まだ続いてんの?」
「すぐに別れました。他にもいろいろ言われて面倒だったんで」
「いろいろって?」
「他の女としゃべるなとか、なんでデートに誘わないのかとか、飲み会に行くなとか……」
「あー、束縛系はキツイな」
「要は信用されてないってことですよね」
「須藤はモテそうだから心配だったんだろ」
「心配されるほどモテません」
「そうか?今だって他の部署から声かかってんだろ?」
「……それはまあ……時々」
 歓迎会の後くらいから、飲みに誘われることが時々ある。
「とにかく断ってるって聞いたから、彼女いるんだと思ってたけど。違うのか」
「断ってるのは、だまされて合コンに参加させられたことがあったからです」
 同期の男に誘われて飲み会に行ったら、実は合コンだったということがあった。
「なに、合コン嫌いなの?」
「元々苦手なんですよ、ああいう場が。初対面の人となんて、なに話したらいいかわかんないし」
「へえ……人見知り?」
「そう……だと思います。話せないから黙ってると、なんか違うイメージを持たれるみたいで。さっき話した人も合コンで知り合って、押し切られて付き合う形になったんですよ。付き合うって言ったって、どんな人だかわからないうちに終わっちゃったし。軽いトラウマです」
 小田島さんが笑いをこらえている。
「どのくらいだよ、付き合った期間は」
「……に……かげつくらい……?」
「短けー」
「彼女って言えるのかどうかってくらいだと思ってます」
 小田島さんは、クックッとノドの奥で笑っている。
「本田と同じ」
「え?」
「本田も、さっき言った久しぶりにできた彼氏、合コンで、押し切られて付き合って、2ヶ月で別れてた」
 小田島さんはゲラゲラ笑い出した。
「お前ら似てるって思ってたけど、そんなとこまで一緒かよ」
「似てるって……」
 俺はぽかんとしていたんだと思う。
 その俺の顔を見て、小田島さんはますます笑った。
「似てるよ、須藤と本田。真面目で大人しそうな感じで言うこと聞いてくれそうなのに、ちゃんと自分を持ってて、納得しないと動かない、とか」
「……本田さんはそんな感じですけど」
「須藤も、俺にはそう見えるよ。だから合コンみたいなところに行くと、上っ面だけ気に入られる」
 そうだ。それは自分でもわかっている。
 だから合コンは苦手なんだ。
「本田なんて、無駄に女らしくて柔らかい感じだろ?ああいうのが好きな男って必ずいるからさ、言い寄られはするけど、本人は『いらない』ってバッサリだよ」
「……わかります」
「須藤は、草食系とか言われるだろ。そんで、押せばなんとかなりそうって思われて、グイグイ来られるタイプ」
「……その通りです……」
 小田島さんはニッと笑った。
「そのうち来るだろうなあ、キラキラ女子」
「やめてくださいよ。ほんと、ああいうの苦手なんですから」
 女らしく、服も髪もメイクもバッチリの、私可愛いでしょ?って言ってるみたいな人達。
 甘ったるく話しかけてくるキンキン声にはうんざりだ。
「ま、俺はなまあったかく見守らせてもらうよ」
「なんですか、その『なまあったかく』って」

 と、ふざけた調子で言っていた小田島さんの言葉が現実になるとは、この時の俺は思いもしなかった。



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