ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 今までは、どこかブレーキがかかっていた。
 と気付いたのは、本気で求めるキスをしてからだ。
 唇を求めて、それから口の中をかき回す。
 後ずさる千波さんをがっちりと抱きながら、夢中でキスを続けた。
 最初は固まっていた千波さんの体は、段々力が抜けていって、漏れる息が甘くなってくる。
 それに興奮した俺は、さっきと同じ首筋にキスした。
 千波さんはビクッとしたけど、抵抗しない。
 キスを続ける。首元からあがる千波さんの匂いが、俺を更に興奮させる。
「千波さん、好きだよ」
 耳元でささやいて、耳にキスをしたら、千波さんの体の力が一気に抜けた。
 支えながら、ベッドに寝かせる。
 犬の抱き枕は存在感あり過ぎなので、下におろした。
 眼鏡を外して、テーブルに置く。
 覆いかぶさって、腕の中に千波さんを閉じ込めた。
「まだ、怖い?」
 千波さんは首を横に振った。
「大丈夫」
「良かった」
 キスをしながら、服の上から体を触る。
 胸の一番大きなふくらみに手をやると、千波さんがピクッと反応した。
 それが可愛くて、大胆に手を動かす。
 服の上からでこんなに可愛い反応なら、直に触ったらどうなるんだ。
 ブラウスのボタンを外して前をはだけさせると、首元の白い肌が浮かび上がった。
「……綺麗」
 思わず口から出たら、千波さんは自分の手で隠してしまった。
「見せてよ、千波さん」
「や、やだ……」
 その隠している手にキスをする。
「あの、はるちゃん」
 キスの度にピクピク反応しながら、千波さんが身をよじる。可愛い。
 俺はもう一度両腕で閉じ込めた。
「逃げないで」
「あ、あの」
「ん?」
 千波さんが、天井を指差した。
「電気……」
 消したら見えなくなっちゃうなあ、と思ったけど、千波さんをリラックスさせなくては、と思い直した。
「スイッチどこ?」
「これ」
 枕元からリモコンを出した。
 千波さんがスイッチを押そうとする。
「ちょっと待って」
 自分の鞄から、コンドームを取り出す。
 間抜けかもしれないけど、これも千波さんを安心させる材料の一つだと思っている。
 ベッドに戻ると、千波さんは上半身を起こして、目を丸くしていた。はだけていた服は、ボタンは外したままだけど、手で合わせて隠されてしまっている。
「それ……」
 驚かれると、恥ずかしくなる。
「えーと……千波さんと付き合い始めてから、用意はしてた」
「え……」
「いつこうなってもいいようにはしとこうと思って。でも、千波さんがいいって言わなかったらするつもりはなかったよ」
 ゴムは枕元に置いて、千波さんを抱き寄せて、おでこ同士をくっつける。
「これなかったら、するつもりないし。今はね」
「今は?」
「うん」
 言いたかったことは、もう一つある。
「結婚するまでは、と思ってるよ」
 千波さんが、固まった。
「あと、結婚しても、千波さんが、俺の子ども産んでもいいって思ってくれるまでは、と思ってるけど」
「須藤君……」
「違うでしょ」
 引き寄せて、キスをする。
「お仕置き」
「……もう」
 千波さんが軽く俺の胸を叩く。
 その後、すぐに真剣な表情になった。
「それ、前にも言ってたけど……私が年上だから?28歳だからそんなこと言ってるの?」
 千波さんは冷静だ。
「きっかけはそうだよ。でも、あの時も言ったけど、俺、千波さんとずっと一緒にいたい。千波さんにずっと『はるちゃん』て呼んでほしい。年取って、じいちゃんとばあちゃんになっても。死ぬまでずっと」
 年始から、ずっと考えていた。告白した時も、そう思っていた。

『一緒にいたいって思ったら、一番簡単な方法だよ。周りにも認められて、堂々と一緒にいられる』
 浩紀の言葉も後押ししてくれた。

「改めて言うよ。俺と、結婚してください」

 千波さんは、ぽかんとしている。
 その表情も可愛くて、キスをした。

 千波さんは、キスをされて、一瞬ビクッとしたものの、ぽかんとしたまま俺をじっと見ている。
 付き合い始める前の、あの視線だ。
 今は、多分俺の言った言葉の意味を考えているんだろうと思う。
 しばらく待っていたら、あはっと笑った。
「結婚て、気が早いなあ」
「え……?」
「私、まだ全然考えてなかったよ?」
 笑いながら眉尻を下げて、ちょっと困った表情だ。
「だからいいよ、考えなくて」

 小田島さんが前に言っていた。

『本田は、あんまり考えてないかもしれないぞ。結婚』

 そうなのか?本当にそうなのか?

「まだ付き合い始めて1ヶ月だよ?お互いに知らないこともたくさんあるし、うまくいくかどうかわかんないじゃない」
 千波さんは、表情を崩さない。目を合わせてくれない。
 なんとなく、本心は違うことを思っている気がする。
「でも俺は、考えてたよ」
 だから、俺は本心をぶつけることにした。
「隣の席にいて、好きになって、ずっと見てた。付き合ってわかったのは、この先もずっと一緒にいたいってこと」
 千波さんはちゃんと聞いてるけど、やっぱり目を合わせてくれない。
「うん、でもさ、人の気持ちは変わるものだし、今はそう思ってても、2年後3年後、5年後にはどうなるかわかんないもの」

 ああ、信用されてないってことか。

 ショックではある。
 でも、それも、想定はしていた。
 俺はまだ23歳だから、これからいろんなことがある。
 仕事で、成功も失敗もするかもしれない。
 新しいことに挑戦したくなるかもしれない。転職することだってある。
 もしかしたら、他の人を好きになるかもしれない。
 そんな時に、自分が足枷になりたくない。
 多分、千波さんならそう考えるんじゃないかと思っていた。
 この表情を見る限り、俺の予想はそう外れてはいないはずだ。

 だったら。




< 90 / 130 >

この作品をシェア

pagetop