ずっと一緒に 〜後輩男子の奮闘記〜


 いつもより2駅先は、ほとんど来たことがない。私にとっては新鮮だ。
 キョロキョロ周りを見ていたら、人にぶつかりそうになって、はるちゃんが手を引いてくれる。
「子どもみたい」
 意地悪く笑う。
 私はむくれた。
「だって珍しいんだもん」
「後でゆっくり見てもいいでしょ?これからはしょっちゅう見られるよ」
 言葉の意味を理解して、顔が熱くなる。
 それを見て、はるちゃんは笑顔になった。
「行こうか」
「うん。歩いて何分くらい?」
「10分はかかんないかな。千波さんの家よりは遠いよ。どこか寄らなくていい?」
「大丈夫」
 はるちゃんの手は、いつもと同じで大きくてあったかい。
 私は、安心して、一緒に歩いた。


 はるちゃんのマンションは、3階建て。3階、一番奥の部屋だった。
「どうぞ」
「お邪魔します」
 ドアを閉めたら、後ろから手が伸びてきた。
「千波さん……」
 抱きしめられる。
 一瞬ぎゅっとして、すぐにくるっとはるちゃんの方を向かされて、また抱きしめられる。
 こんな風にされたのは初めてだった。
「ごめん、もうちょっとこうさせて」
 黙って頷く。

 やっぱり何かあるんだよね。
 聞きたいけど、まだ聞いちゃいけない気がして、しばらくじっとしていた。

 はるちゃんは、時々抱き直して、私の髪に顔を埋めている。
 はあっと、長くため息をついて、私の頭をなで始めた。
「ごめん。もうちょっといい?暑くない?」
「大丈夫」
 私は、はるちゃんの背中に手を回した。ぎゅっとしてから、さすってみる。
 はるちゃんが頭の手を止めて、私を抱きしめる手に力を込めた。
 私も、背中をさするのをやめて、抱きしめる。
 やがて、はるちゃんが力をゆるめた。
「ほんとはこのまま抱きたいんだけど」
「なっ……なに言って……」
 私が焦ると、はるちゃんは笑った。
「まだ我慢する。ご飯食べよう」
 頭をポンポンとなでて、やっと靴を脱ぐ。
 私も靴を脱いで、上がった。
 すぐ左側に洗面所があった。
 2人で手を洗って、玄関の正面の引き戸を開ける。
 はるちゃんが電気を点けて、エアコンの電源も入れた。

 グレーのカーペットにカーテン。掛け布団もグレーだから、部屋がグレー一色に見える。
 色が少ないのが、はるちゃんぽい。
 家具はほとんど黒。本棚にだけ色がある。

「荷物ここに置くよ」
 私の荷物をベッドの脇に置く。
「汗かいたし、先にシャワーにしようか」
「うん。はるちゃん、お先にどうぞ」
 はるちゃんはニッと笑う。
「一緒に入ろ」
 顔がボンッと赤くなったに違いない。一気にほてった。
「……やだ」
「なんで?」
「恥ずかしい」
「もう全部見てるのに?」
「それとこれとは別」
「入りたいなー」
「……だめ」
 はるちゃんは笑ったまま、洗面所の方に消えて行った。
 ちょっとすると、シャワーの音が聞こえてくる。
 私は、自分の着替えを用意して、ベッドの横の座布団に座った。
 ベッドの布団にもたれかかると、はるちゃんの匂いがする。
 落ち着くな、と思っていたら、記憶が途切れた。



「千波さん、駄目だよ寝たら」
 つんつん、と頬をつつかれた。
 座ったまま眠っていたみたいだ。
 目を開けると、髪が濡れたはるちゃんが、私を覗き込んでいた。
 ちゅっと頬にキスされる。
「起きないと、襲うよ?」
「……起きる」
 もそもそと上半身を起こす。
 はるちゃんはトランクスだけで、上半身は裸。
 色気たっぷりで、ドキドキしてしまう。
「ご飯の用意しとくから、シャワーしてきなよ」
 はい、とTシャツとパジャマのズボンを渡される。
 部屋着は貸すから持ってきたら駄目、と言われていた。
「ぶかぶかの、見てみたい」
 ニッと笑う。そういう目的?
「はい、行ってらっしゃい。なんかわかんなかったら呼んで」
「ありがと」
「覗いていい?」
「駄目!」
 あはは、とはるちゃんは笑う。
 もう大丈夫になったのかな、と思いながら、シャワーを浴びた。



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