好きは色づく花。
静けさを取り戻した資料室で、私たちは作業を再開した。
しばらくして、私は口を開く。
「楓と2人きりになるのって久々かも」
「いつもは葵か杏がいるからな」
私たちは4人で居ることが多い。
だからこうして2人きりになるのはあまりない。
「みー太、元気にしてる?」
みー太とは、楓の家で飼っているオス猫のこと。
「最近よく食べるんだよ。そのせいでだいぶ丸くなった」
「久々に会いたいかも」
「隣なんだしいつでも来ればいいじゃん」
「そうだね。じゃあ帰りによっていこうかなあ」
こくん、と頷く楓。
楓は割と口数は多くない。
周りの生徒からはクール王子と呼ばれている。
黒髪で切れ長の目がより一層、そう感じさせるのだろう。
それとは対照的に葵は爽やか王子と言われている。
人当たりがよく、誰にでも分け隔てがない。
2人は神社で言うところの狛犬の様に対になっている。
そしてとてもモテる。
今まで何度も告白されるのを見てきた。
そういえば昨日も告白されてたな、楓。
ぼーっとそんなことを思い出しながら本棚の上にある箱を取ろうとしていた。
「菫」
「え、なに____」
箱に手が届いて降ろそうとした瞬間、楓に呼ばれ振り返る。
「ちょ、バカ!手離すな!」
珍しく楓が慌てる。
その瞬間、視界が暗くなった。
目の前に大きな影。
楓だ。
私を守るように覆いかぶさった楓は、随分と男らしくて、少しドキッとする。
「危なかった…気をつけろよ」
楓は落ちそうになった箱を支え、私を守ってくれた。
「ご、ごめん!怪我、ない?」
「間一髪で押さえたし、平気。菫こそ頭打ってない?」
「うん、平気…ありがとう」
「菫に怪我させたら、怒られるの俺だし…」
「そんな事ないよ、私が箱から手を離したのが悪いんだし」
「いや、葵と杏は怖い。特に杏…」
楓の顔が少し引き攣る。
どうやら怒られたことがあるらしい。