好きは色づく花。
「菫、ちょっとじっとしてて」
「え、うん?」
楓の大きな手が私の頬に触れる。
「汚れ、付いてる」
「悪い悪い、少し時間かかって___」
その時、タイミング悪く清水先生が戻ってきた。
タイミングが悪すぎる。
楓と私の距離はほんの数センチ。
しかも頬に手を添えて、まるでキスするかのような体制。
「お前ら、何してんだ…?」
呆然とした清水先生。
「あ、いや、これは違います!」
「いや、いいんだ、そうだよな…そういうお年頃だよな」
うんうん、と勝手に頷く先生。
「本当に違うんです!私の頬が汚れてたからそれで拭いてくれて…!」
「そんな否定するなって。飯倉が可哀想だろ、大切にしてやれ」
ああ、これは弁解するだけ無駄かもしれない。
「菫…そんなに俺のことが嫌いか…?」
「え、なんで楓まで!」
クスッと笑う楓。
これは楽しんでる時の楓だ。
「もう!」
「あのぉ、先生…私もお手伝いしようと思ったんですけど…」
「ああ、悪いな水川」
清水先生の後ろからひょっこり顔を出したのは、水川 椿。
彼女は隣のクラスで、校内の4大美女の1人と言われている人物。
恐らく、先ほど清水先生を呼んだのは彼女なのだろう。
「あれくらいの事でわざわざ手伝わなくても。俺の教え方が悪かったんだしな」
「そんな事ないです!私が勝手に手伝いたいと思っただけですから。手伝わせてください!」
可愛い上に、人が良い…4大美女と言われるだけはある。
ふと、一瞬視線が気になった。
水川さんに目をやると、視線が合う。
直ぐにそらされてしまったけど。
なんだったんだろう?
「そうだな…作業もあと少しだし、この不要な書類を校舎裏のゴミ置き場にまとめて持って行って貰えるか?」
「分かりました」
入口横のダンボールに詰め込まれた紙の束はかなりの量。
「ダンボール2つもあるので俺も一緒に行ってきます」
「そうだな、頼んだ」