好きは色づく花。
そして全ての作業を終える頃にはすっかり日が暮れていた。
一度部室に戻った後、解散となった。
「それでね、部長が人体模型倒して大慌てで___」
杏が楽しそうに今日の出来事を話す。
「資料室の方はどうだった?」
と葵が私たちの顔を見る。
「こっちは何も無く___」
その瞬間、棚から落ちてくる箱から庇ってくれた楓の顔を思い出してしまう。
「菫、どうした?」
楓が固まる私を心配そうに見つめる。
「え、あー、いや、そういえば水川さんが手伝ってくれたなあって」
「え、あの水川椿!?」
杏が目を見開く。
「うん。たまたま流れで手伝って貰うことになったの」
「水川さんといえば、告白する男が絶えないって噂よね」
「ああ、あの水川さんか。確か隣のクラスだっけ。うちのクラスの男子も告っては振られてるみたいだけど…」
「そうそう、あたし去年同じクラスだったけど、1年の頃からそんな感じで彼氏居たこと無いらしいの。1人くらい付き合っててもおかしくないと思うんだけどなあ。サッカー部のイケメンにも告白されてるのに」
可愛くて羨ましい、と呟く杏。
「杏も可愛いよ?」
「…っ!もう!菫大好き!」
ぎゅっと私の腕に抱きつく杏。
「杏、離れろ」
少し不機嫌そうに楓が言う。
「これは女子同士の特権なのー。幾ら楓くんでもそのお願いは聞けないなあ。羨ましいでしょ〜」
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる杏。
それに対して楓はムッと眉をひそめる。
「別に羨ましくない」
「楓くんは素直じゃないなあ。ね、葵くん」
「楓は感情を表に出すのが苦手だからな」
「……葵くんだって」
「杏…?」
「ううん、なんでもないっ」
小声で呟く彼女の言葉は、恐らく私しか聞こえていない。
葵に対するどこか不満げな表情が少し気になる。