聖人女王の転生譚
「目の色と、眉の形……くちびるもきっと私と同じね。髪の色と鼻はあの人にそっくりだわ」
「ええ、ええ、まことにお二人によく似ていらっしゃいますね」
自分の髪は濡れ羽色ではないのかと少しだけがっかりする。
こんな綺麗な髪は見たことがなかったのでどうせならおそろいがよかったのだがこればかりは運である。
代わりにこの透き通るようなエメラルドが自分の瞳なのだと思うとはやく鏡をのぞきたくて仕方がなかった。
「エミューリア!」
「まあ、あなた」
鼻息荒く部屋に駆け込んできたのもまた見たこともないほどの美男子であった。
年若い夫婦なのに貴族ということは代替わりした当主なのだろうと一人考える。
エミューリアと呼ばれた母の手をとり体はどうだ、水は飲めるかと声をかけるさまは正に仲睦まじい夫婦のそれであった。
父、そしておそらく主人である男はすらりとした体躯に、妻に負けず劣らず美しいビスクドールのような造形の顔と波のような輝く銀色の長髪をしており、それを彼女の目と同じグリーンの髪紐で結っていた。
目はこちらもアクアマリンのように綺麗な色をしている。自身の前世の享年もまあまあ若かったが、この夫婦はそれよりも若いだろう。まだ二十くらいではないのか。
嫁いだ後、円満な夫婦となり早いうちに子供を産んでいるというのは十二分に貴族の義務を果たしており、使用人たちの様子を見るに嫌な貴族のそれではないらしい。
とりあえず家族で苦労することはあまりなさそうだ。