聖人女王の転生譚

「ときに大公。もしまだクロエの今後が決まっていないならリシャールの相手をさせてはくれんか」



「は、ロラン殿下ではなく?」



「これは体も弱く、まだ未熟だ。学院に通うまではまだ時間があるから今のうちに他者と交流することを覚えさせたいのだ」



 非常に不服そうな顔ではあるが、反論もできないのかリシャールはぷいっとそっぽを向いてしまった。

 万人受けする、太陽のようであった男が今世は虚弱とはまったく神はこういうところでも驚かせてくれるらしい。

 どうだと問われたので頷いてリシャールに近づき最上礼で頭を下げると彼は驚いたように身をよじった。



「リシャールでんか、どうかわたくしとおはなしあいてになってくださいませんか」



 五歳の令嬢にそういわれて無碍にするわけにもいかなかったのだろう。

 渋々、といった様子ではあったが了承してくれた。国王と父は嬉しそうに、そしてほほえましそうに自分たちのほうを見ていた。



◇◇◇




 そんな思い出ももはや三年前の話なのだから子供の成長速度というのは恐れ入る。



 精神面はいい大人でも、改めて一から学びなおすと日々の速度がまるで瞬きのように一瞬だ。

 女王としての重圧に縛られていないというのも大きいのかもしれない。子供らしく、駆けまわって笑って過ごすことなんて許されてこなかった。

 規範となるために間違いは許されない。

 子供のしたことであっても将来評判にどんな傷がつくかわからない。

 あの王家にとって、そのときの自分にとってごく当然だったその考え方は外から見ればずいぶん凝り固まったいやな風習だと思う。

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