聖人女王の転生譚
こういうことを言うと捻くれているように聞こえるかもしれないが、たとえば王の席次争いでリシャール様を裏切るような存在がいたとすればそれはまず真っ先に人間だ。
当然のことだろうが、その当然に麻痺してはいけない。
どんな境遇であれ等しく生きる権利がある。
命は決して平等とは呼べないが、生きようと思う気持ちは平等であるべきだ。
女王として統治してきた自分のその考え方はこれからも変わるまい。
「衝突も波も起きぬ、平穏な十五年を過ごしてまいりました。半年後のデビュタントでは私とリシャール様の婚約が大々的に発表されます。書面ではもう固まった話ですが」
「人間とは難儀なものよなあ」
「面倒くさい」
「だが誓いを形骸化させてはよろしくなかろう」
「こたびはなぜ私に降りてきてくださったのですか」
「降りてはいない。そなたを上げたのだ」
「さようでございますか」
どちらでも大差ないと思うが爬虫類のようなその見た目であっても嬉しそうに笑う最高神に畏敬の念を示さずにいられようか。
「そなたの世界に、幸多からんことを」