聖人女王の転生譚



 やはり夢だったか。

 からまった毛先をつまみ、ほどきながらおぼろげな映像を描く。

 私は死んだらあそこに行くのだ。その前にひととき、夢を見てもよいという神々の慈悲でクロエ・エンディアとしていま生きている。

 生きるってなんだっけ。

 王族として生きていた時、日々忙しくて自分のことなんてろくにできなかったけれど眠る直前だけはそんなことを考えていた。

 私のしていることは人を生かせているんだろうか。

 私自身は、生きているといえるのだろうか。虚無にも似たその感情をこの十五年いちども抱いていない。

 生きているのだ。幸せに。



「クロエお嬢様、お茶の時間にリシャール様がいらっしゃるそうですよ」



「そう、では今日のお稽古は午前中で終わりにしましょう」



 たとえあなたが何を知らなくとも私はずっとずっとあなたを想って生きていきます。

 そうすることで私があなたと過ごした日々の美しい部分を取っておけるような気がするから。



 そう思ったのに。

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