転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

ゲームではこのとき、リリザの前にサマラが立ちふさがるのだ。『十三歳で魔力が覚醒したインチキ魔法使いってあなたのこと？』とかなんとか因縁をつけて。

そこに助けに入るのが、魔法研究所所長として研修室に挨拶に来たディーだ。サマラに突き飛ばされて転んだリリザに手を貸し、サマラには『くだらん騒ぎを起こすな。素行の悪いものは帰ってもらっても構わんのだぞ』と他人のように言い放つのだから恐ろしい。

今やディーがサマラにそんなことを言うとは到底考えられないが、そもそもサマラはリリザに意地悪をする気はない。
今はただおとなしく席に座って、リリザが無事に着席するのを待つだけだ。
――すると。

「きゃんっ！」

リリザが突然転んだ。研修室の何もないところで突然に。

（えっ！？　私、突き飛ばしてないよ！？）

驚いたサマラは手を貸そうとして立ち上がり、躊躇する。ここで助けたらきっと彼女の印象に強く残ってしまう。できればあまりリリザと接点を持ちたくない。

（う～～、でも目の前で転んだのに助けないってのも人としてどうなの？）

葛藤したあげく、サマラは席から歩いてリリザのもとへ向かった。けれど、「大丈夫？」とかけた言葉は、「何をしているんだ」という低い声にかき消されてしまう。

振り向くと、そこにはディーと研究所の所員が立っていた。その光景を見て、サマラの背にゾッと冷たいものが走る。

（あれ……？　この構図って……）

既視感を覚えたのは、決して気のせいじゃない。サマラの脳裏に前世の記憶が蘇る。それは――『魔法の国の恋人』の一場面、リリザとディーの初対面のスチル（静止画）だ。