転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
この世界はリリザが中心になって動いている。彼女が何をしても周囲から愛されるのも、強引にゲームの場面や台詞がねじ込まれるのも、サマラに身に覚えのない後ろめたさを抱かせるのも。すべてリリザの主人公補正だ。

だとしたら、ディーもまた彼女の主人公補正に従ってもおかしくはない。
今まで彼が惑わされずにいられたのは、リリザとほとんど直接の接触がなかったからだ。
けれど、とうとうディーも絡めとられてしまった。『魔法の国の恋人』というリリザのための物語に――ディー攻略ルートイベント『負けない心』に。

(もう終わりだ……。まさか脈絡もなくイベントがねじ込まれるなんて。こんなの避けようがない、抗いようがないじゃない。この世界はどうあがいたってリリザのためのものなんだ。私は……悪役令嬢としてひとりぼっちで死んでいくしかないんだ)

主人公という存在の強さをまざまざと見せつけられて、サマラの心が折れそうになる。
――ところが。

「駄目だ」

無慈悲なほどリリザのお願いを一刀両断した低い声が、サマラの耳に届いた。

「何がチャンスだ、愚か者が。初めての失敗ならいざ知らず、お前はこの四ヶ月でどれほど周囲に迷惑をかけてきたか忘れたのか。王太子たちとずいぶん懇意にしているようだが、その時間を何故魔法の研磨にあてなかった。己の未熟さを知りながら努力を放棄している者に、これ以上差し伸べてやる手はない。去れ。魔法研究所にお前の居場所はもうない」

厳しく言い放ったディーを、サマラは身じろぎも出来ないほど驚いて見つめる。

(……ならなかった……? ゲームの通りに、リリザに絆されてチャンスを与えなかった……)
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