転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
驚きのあまり呆然としていたサマラは、やがて感激で静かに震えだした。自分の鼓動や呼吸を、強く意識する。肌で感じる太陽の温かさや風の心地よさに、生きていることを痛感した。
(……っ、ゲームじゃない! ゲームだけど、ここは本当に私やディーが生きている世界なんだ……! 私やディーが生きて考えて歩んできた人生は、プログラムにも主人公補正にも負けないんだ!)
絶望に陥りかけた心に、強い光が差す。
抗いがたいと思っていた運命を自分の努力と大切な人の絆が切り開いたのだと思うと、大きな希望と勇気が湧いてきた。
懇願の通用しなかったリリザは唖然とした後、「ひどい!」とバレアンに取り縋って泣き出した。
リリザのあまりの救いのなさに戸惑っていたのか立ち尽くしていたバレアンだが、彼女に泣きつかれハッとして眉を吊り上げる。
「ふ、ふざけるな! リリザは『奇跡の子』なのだぞ! この国の宝に向かって、よくもそんな……!」
しかしディーは喚くバレアンに構わず「正式な退所勧告は追って書面で通達する。それから、『アンチ・マジック』による被害の賠償請求もだ」とだけ言い残し、さっさと背を向けた。
立ち去ろうとするディーを衛兵たちが止めようと近づこうとするが、カレオに一瞥され結局動くことが出来なかった。
「お父様……」
自分もここから去ろうとサマラはディーの後を追おうとする。すると、ディーはサマラの方に顔を向けてから、わずかに目を眇めた。
「え?」
一瞬ではあるが明らかに忌々しそうに顔をしかめたディーに、サマラはドキリとする。
しかし彼の視線はサマラではなく、その隣にいるレヴを捕らえていた。