転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
そう言って呆れたように肩を竦めたリリザは、馬車の壁を御者に向かってノックする。
それを合図に馬車が停止し、護衛の男が突然サマラの腕を掴んで席から立ち上がらせた。

「お友達って助け合うものでしょ？　でもサマラはリリザのお願い聞いてくれない。だからリリザも、サマラのこと助けてあげるのやめるね」

「え？　ちょ、ちょっと！？」

サマラが目をパチクリさせている間に馬車の扉が開かれ、護衛の男が突き飛ばすようにサマラを馬車から追い出した。石畳の地面に、サマラは尻もちをついてしまう。

「じゃーね、バイバーイ」

リリザがニッコリ笑って手を振ると、馬車はサマラを置いて走り出していってしまった。

「ちょっと！　道端に捨てていくなんて無責任じゃない！？」

遠ざかっていく馬車に叫ぶものの、当然戻ってくるはずもない。夜の闇に虚しく叫びが木霊しただけだ。

呆然としていたサマラだったが、誰かが近づいてくる気配がしてハッと立ち上がる。
周囲を見回すと、街灯のない裏通りのようだった。月に照らされた仄かな明かりの下、道の影で抱き合っている街娼と男や、身なりの汚い集団が地べたに座って酒を飲んでいる。

ただでさえ貴族丸出しの格好で年若い娘がひとりでいたら目立つというのに、こんな治安の悪い場所へ置いていかれるなんて、狼の群れに羊が放り出されたようなものだ。

急いでここを離れなくてはと焦って歩き出そうとしたサマラだったが、一歩遅かった。
突然後ろから大きな手に腕を掴まれ、体ごと取り押さえられてしまった。
大声で叫ぼうと思った瞬間、甘い香りのする布を鼻と口に押し当てられて一瞬で頭が朦朧とする。
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