転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました
「すぐに支度をしてきますね！」と言い残して、サマラはスカートの裾を持って駆けていく。途中で自分のお行儀の悪さにハッとしてスカートを下ろし、おしとやかに歩きだした。

その後ろ姿を見てディーは「賑やかなやつだ」と呆れたように呟いたが、金色の眼差しは決して厳しいものではなかった。



街へは馬車で向かった。
ディーが所持する領地の中で、このアリアン州が一番広大な領地だ。森や湖など自然を多く残しながらも湾口を持つ海沿いの市街地は栄えており、交易が活発だ。特にこのメヴィア街では他国から輸入された珍しい食材や書物、宝石や楽器なども多く扱っている。

「わあ、海だ！　きれーい！」

海岸線沿いの道を走る馬車の窓から、サマラは外を眺めて感激の声をあげる。
サマラは生まれて初めて海を見た。前世では海を見たことがあったが、今目の前にあるエメラルドブルーの海とは雲泥の差だ。ファンタジーの世界だからだろうか、信じられないくらい水が美しい。

「サマラ様は海は初めてだったんですか。よかったですねー、見られて。俺は海に囲まれた国で生まれたから、海を見るとどこでも故郷にいる気分ですよ」

向かいの席でカレオも窓の外を眺めながら言う。
彼の出身はバリアロス王国からはるか東にある砂漠の国リンピンだ。三方が海に囲まれた暑い国だと聞いている。

（実はカレオってリンピンの王族の血を引いているのよね。何気にハイスペック……）

リンピンは百年前まで王国だったが、クーデターが起き今は共和国となっている。カレオは滅亡したといわれている王家の血を引く生き残りだ。
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