転生悪役幼女は最恐パパの愛娘になりました

「古き魔法使いが命じる。裂けよ、理の壁。開け、狭間の道。月と夜の女神の導きにより、今ここに幻想を紡げ」

ディーの呪文が空に響き渡ると、沈黙が訪れた。そして現れた光景に、サマラは目を疑う。

空に大きな光る亀裂が入ったかと思うと、その裂け目はみるみる大きくなり、なんと――巨大な翼竜が飛び出してきたのだ。

「きゃあぁああぁっ！！！」

この世界へ来て様々なファンタジー現象を見てきたサマラでも、さすがにドラゴンの出現は驚く。まっすぐこちらへ向かって飛んでくる翼竜に、思わず「ひぇっ」と身を屈めれば、「大丈夫だ」とディーが抱き上げてくれた。

翼竜は大きな翼を羽ばたかせ、目の前の荒野へ着陸した。深緑色をした爬虫類のような巨体。民家ぐらいの大きさはあるだろうか。

ディーはサマラを抱いたまま翼竜のもとまで行き、鱗に手をかけ器用に体を登っていく。そして翼竜の首の付け根辺りに跨ると、サマラを下ろし自分の前に座らせた。

「落ちるなよ」

そう言ってディーがサマラのお腹に手を回し支えてくれた次の瞬間、翼竜が再び羽ばたきだした。

目下の景色がみるみる遠ざかっていき、サマラは「ひゃぁああ」と悲鳴を上げて気を失いそうになる。

「下を見るな。前を向け」

サマラを抱きかかえながら、頭の上でディーが言う。
恐る恐る顔を上げて、サマラはその双眸に景色を映した。

「わ……あぁ……！」

さっきとは違う感嘆の声が、口から零れた。