喉元の熱~℃~
「ドラマみたいな良い瞬間見ちゃった。」
クスクスと笑いながらワインボトルを手にして戻ってきた薫さんが、眠る志織さんの頭をポンとたたくと『良かったな、志織』と呟いた。
「志織、寝ると朝まで起きないから。」
「何でそんな事を知ってるんですか。」
「そんな牽制しなくて大丈夫だよ。志織の弟が俺の可愛い彼氏だから知ってるってだけだし。」
聞いてはいけない事をさらっと聞いてしまった様な気がして『何か…すみませんでした』と僕が言うと、薫さんが『いえいえ。キミは素直で可愛いね…』と言い終える前に、僕の背後から腕が伸びてきて、その手は薫さんの襟首を掴んだ。
「どーせ俺は可愛くねーしっ!」
薫さんの襟首を掴んでいるその声の主の方を見ると、志織さんとそっくりな顔立ちの弟であろう人物が立っていた。
「あのさ、姉ちゃんのマンション迄送ってってやってくれない?」
「それは大丈夫ですけど、志織さん朝まで起きないんですよね?」
「あー。キミは大丈夫でしょ。送り狼にならないだろうし。」