新人ちゃんとリーダーさん
「もしも、の話、だけどよ」
「はい」
「お前の男がクズでヒモなパラサイト野郎だとして、別れようと思うとしたらどんなきっかけだ?」
カシュ、と缶の飲み口を開けて、中のビールを一口飲んでから視線を右斜め下へと向ければ、きょとりとしたまん丸な目とかち合った。
上目遣いはそのままにぱちりとゆったりした瞬きをしたあと「んー」と思案しながら伏せ目がちになるそれは、やはり誘っているのだろうかとどうにか保ち続けている理性が焼き切れそうになる。
くそ可愛舐めてぇ。
「……別れない、んじゃないですか、ね、」
そんな邪な俺の思考などくそ鈍いこの女が気付くわけもなく、真剣な、だけどどこか申し訳なさそうな表情を浮かべて、九頭見はまた一口くぴりと梅酒を飲んだ。
己の事だと九頭見自身が気付いてなくとも、九頭見の吐き出した言葉が俺にとってはそのまま答えになる。
「……何で」
「詳しい事を知らないので正直何とも言えないんですけど、でも、その、男性でも女性でも、そういう人と恋人だったり結婚してたりする人って、割りと、この人は自分がいなくちゃ駄目だから、みたいな事、言ってませんか?」
言われて、思案する。
いつだったか、「ご飯の用意をしなくちゃいけないんで」と言っていた九頭見に、「んなもん自分で出来るだろ。自分の事は自分でさせろよ」と遠回しにお前の男は本当にクズだなと言った俺への返答が「私がしなくちゃ駄目なんで」だった。
典型的なダメンズ製造機じゃねぇか。経験者は語るってか、くそが。
「……為す術なしって事か」
「あっ、や、あの、だから、その、自発的には、ですよ?」
「……」
「も、もし、相手の方から、別れを告げられたりした場合は、多分、別れると思います」
きょろりと視線をさ迷わせつつも、まだ希望はあると苦し紛れのフォローを口にする九頭見がくそ可愛い。
全力で俺の理性を刈り取りに来ているようだし、もだもだせずにさっさと押し倒して既成事実を作ってしまおうかと思考が良からぬ方向へと進む。
しかし、だ。それを行使すると、伴うリスクが格段に増える。
「……だから、その、奪うなら、女性に何かするんじゃなくて、男性に対してその女性と別れたいと思わせるように仕向けるのが、現状では最善かと」
「……最善、ね」
「はい。最善、です!」
やはり、こいつの同意は必要だ。